2024.05.31

いまオフィスに必要なユニバーサルデザイン

三井不動産では、誰もが自分のカラーを活かして働けるよう、「COLORFUL WORK」を『三井のオフィス』のスローガンに掲げ、多様な働き方の実現をサポートしています。
誰もが働きやすい場所を提供する上でポイントになるのは、「能力・状況に関わらず、できる限り多くの人が使いやすい建物・環境・製品を設計する」というユニバーサルデザインの考え方です。バリアフリーの「障がい者や高齢者にとって障害となる要素を取り除く」に対して、対象を限定せず、さらに、設計段階から考慮するという点でよりインクルーシブな姿勢を重視し、多様性の時代に普及してきました。
今回、国内唯一の聴覚・視覚障がい者のための国立大学「筑波技術大学」の企画協力のもと、聴覚障害・視覚障害・車いす使用者と共に、オフィス環境をユニバーサルデザインの観点で検証するツアーを実施しました。そのツアーの様子をご紹介します。

<こういうお悩みの方に本記事はオススメ>
・雇用中の障がい者の就業環境をより良くしたいとお考えの人事及び総務担当者
・オフィスのユニバーサルデザインに関心のある方

オフィス環境のユニバーサルデザインには伸びしろがある

ユニバーサルデザインというと、公共建築や商業施設の文脈で語られることが大半です。しかし、今後は、オフィス環境でも語られるべきものになっていく可能性があります。それはなぜでしょう。
現在、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の考え方は社会全体で普及しつつありますが、国主導でさらなる深化が進行中です。例えば、障害者法定雇用率は、令和5年度は法定雇用率2.3%(対象事業主の範囲は従業員43.5人以上)でしたが、令和6年4月に2.5%(40.0人以上)、さらに令和8年7月に2.7%(37.5人以上)と継続的に引き上げられています。また、障害者雇用促進法では、2016年4月より、国や自治体、事業者に対して、障害のある人が職場で働くにあたり支障となっている事情を改善するために必要な措置をとること(合理的配慮の提供)を法的に義務づけています(なお、必要な措置が事業主に対して過重な負担を及ぼす場合は、提供義務を負わないとされています)。障がい者の仕事を通じた社会参加は、量・質ともにより一層増えていくことが予想されています。
一方、雇用を受け入れる側の企業、特にオフィス環境はどうでしょうか。バリアフリー法(正式名:高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)では、公共交通施設のほか、病院や百貨店など不特定多数が利用する建築物においては、さまざまな基準(例:車いす使用者用トイレは建物に1つ以上、道路から案内所に至るまでの経路に視覚障がい者用誘導ブロックを設置)への適合義務があるものの、オフィスビル(事務所)に適合義務はありません。

このように、障がい者の雇用者数は増えるのに、オフィスの環境整備についてのガイドラインはないのが実態で、大きなギャップがあると言えるでしょう。各企業は手探り状態かもしれません。
これらの背景のもと、三井不動産株式会社及び三井不動産ビルマネジメント株式会社では、オフィス環境のユニバーサルデザインは伸びしろが大きいと考え、専門家や障がい者とともに、実際に働く場を見る「ユニバーサルデザイン調査ツアー」を実施しました。

共創を生み出すためのオフィスを目指して

「ユニバーサルデザイン調査ツアー」は、国内唯一の聴覚・視覚障がい者のための国立大学「筑波技術大学」の梅本舞子准教授と山脇博紀教授(ともに産業技術学部)の指導のもと企画しました。梅本准教授は、つくば市バリアフリー策定協議会の副会長を、山脇教授は、つくば市高齢者福祉推進会議の副委員長を務めるなど、実践的なユニバーサルデザインの専門家で、ご両名とも大学では聴覚障害のある学生に建築学を教えています。

ツアーの企画にあたって重視したのが、障がい者本人と過ごし、当事者体験を共有するということ。障害特性は個別性が高いため、座学で正解を学ぶというアプローチでは不十分と考え、参加する三井不動産・三井不動産ビルマネジメント社員1人ずつが障がい者とペアになって、90分間オフィスを巡るように企画しました。

一緒に問題を感じ、対策を考えたことによって、参加後のアンケートで、参加者から、「自身ではあまり気にならなかった、フロアの色や什器の色などにガイド(障がい者)の皆さんは目を向けていて、自分自身の観点も広がった。」といった声が上がるなど、当事者体験の共有が実現されたことが窺えます。
また、今回ガイドいただいたのは、視覚障がい者、聴覚障がい者、車いす使用者ですが、視覚障害では、全盲、近視、視野狭窄と異なる特性を持つ人にガイドを務めていただき、障害特性の個別性を理解する機会にもなりました。

実際に、ツアー対象として検証したのは、本社ビル11階のオフィスフロア(2019年開設)です。ここは、「CROSSING」をコンセプトに掲げ、出会いや交流を促す現代的なオフィスを目指しています。「CROSSING」の渦の中に、様々な障害特性をもった人も加わり、これまで以上のダイナミックな交流を実現するには何が必要かといった観点で、オフィスを検証しました。

具体的には、働く時の4つのシーン(①集中・生産性、②チームワーク、③休憩・リラックス、④アメニティ)を想定したコースを企画し、ペアごとに巡回・検証を実施。ツアーガイドとなった障がい者が、まず使ってみて、感想を述べ、ペアの参加者と問題点を言語化しつつ、どういった対策案が検討できるのかを都度議論しました。その双方向なやり取りもあってか、「便利だと思っていた什器・機器が実は使いにくい」「障がい者向けの対策案は健常者にとっても便利」など、ツアーでは多くの気づきを得ることができました。

また、知るべき重要事項が少なくないことを再確認できたのも成果でした。例えば、車いす使用者の手の届く範囲は限定的で、床上40cm以上が目安となることや、全盲の方であっても一度空間を認識できれば単独で移動できる場合があること、聴覚障がい者は手話など普段使い慣れている言語を職場では使用することを諦め、コミュニケーションの壁を強く感じていることなどが挙げられます。

報告会での学び・気づきと今後の動き

ツアー当日の指摘事項は、優れた点および改善が必要な点を併せて、計68箇所に達しました。「パーティションの少ない、視界の広がるフロアは、聴覚障がい者にとって空間認知しやすい。」「各所に設置されているホワイトボードは、聞き取りや発語に困難を伴う聴覚障がい者にとって非常に有益。マーカーの設置やボードの高さ調整などで、さらに効果的に活用できる。」など、多様な障がい者から数多くの指摘が報告されました。そして、ツアーから1か月後に開催された報告会では、「あくまで例です」という前提のもと、計9つの対応案が筑波技術大学より例示されました。

多くの対応策が、機器・什器の設置のみで対処できるもの、また、社内の啓発活動を必要とするものでしたが、一部、建築施工が必要なレベルのものも含まれます。ユニバーサルデザインの推進に多角的なアプローチが必要であることが再認識できたと同時に、現行オフィスのポテンシャルを見つめ直す機会にもなりました。
その後のディスカッションでは、「ユニバーサルデザインを追求したモデルルームを1室作ったらいいのではないか」「日本橋の企業と共に実証していきたい」といったアイデアが参加者から飛び出すなど、今後のオフィス作りにどのように生かしていくか活発な議論がなされました。

実は、2024年4月、聴覚障がい者とのリアルタイムコミュニケーションを円滑化する
VUEVO字幕透明ディスプレイ」が日本橋・八重洲エリアに設置されました。日本橋室町三井タワーの1階オフィスエントランス受付をはじめ、日本橋・八重洲エリアの3か所に設置され、聴覚障がい者や外国語話者との円滑なコミュニケーションの実現をサポートします。

今後も、ユニバーサルデザインの発想・実装を通じて、DE&Iを実現し、誰もが働く喜びを感じられるオフィスづくり・街づくりを目指していきます。

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