2024.03.22

グループの事業ポートフォリオ拡充のキーワード「CROSSING」の未来を描き、グループ力を高めるオフィス集約

総合エネルギー物流企業・上野グループは、京浜地区に点在していたグループ各社の拠点を集約し、2020年秋、霞が関ビルディングに東京オフィスを開設。新オフィスのねらいや空間づくりの工夫、移転後の変化について、移転プロジェクトに参画した上野グループホールディングス株式会社人事部副部長の鶴巻彩子さんと、上野トランステック株式会社戦略推進部の小林彩夏さんに伺いました。

目次

グループの連携強化を目指した移転プロジェクト

上野グループが入居するのは、霞が関ビルディングの7階。現在、グループ10社、約200名の社員がこの東京オフィスに在籍しています。中央のエレベータホールを囲むように、エントランス、応接室・会議室エリア、執務エリア、コラボレーションエリアをバランスよく配置し、フレキシブルな働き方を支える開放的な空間が広がっています。

移転プロジェクトの開始は2019年。小林さんは当時を振り返り、「同年、上野グループは創業150周年の節目を迎え、今後200年企業を目指していくために、事業ポートフォリオの拡充が大きなテーマとなっていました。その上で不可欠だったのが、グループ各社の連携を強め、シナジーを発揮していくことです」と話します。

それまでグループの首都圏の拠点は、東京から神奈川にかけて点在し、物理的にコラボレーションを深めにくい状況でした。「オフィス集約を前提に移転を検討していたころ、ご紹介いただいたのがこちらの霞が関ビルディングでした。決め手となったのは、主要なお客様が集まる丸の内・大手町へのアクセスの良さと、何よりフロア面積が800坪あり、複数階をまたがないワンフロアオフィスを実現できる点でした」と小林さん。

移転プロジェクトは、各社からそれぞれメンバーを選出することで推進しました。今ある課題は何か、それを新オフィスでどう解決していくか、コンセプト策定のチームを組成し、何度も集まりディスカッションを重ねたそうです。鶴巻さんもまた、人事部の立場からそこに参画。「たどりついたのは『CROSSING(交差路)』のコンセプトでした。様々な人・情報・経験が交差し、コミュニケーションを深めながらグループの一体感を高めていける空間を目指しました」と語ります。

「CROSSING」は、上野グループが拡充を図る事業ポートフォリオ(Chemical:化学、Renewable energy:再生可能エネルギー、Overseas:海外、Sustainable business:サステナブルビジネス、Staffing・Storage:人材・危険物倉庫、IT&IoT:情報技術、Neighboring business:周辺事業、Gas:ガス)のキーワードとも重なり合うものです。オフィス集約を通して、上野グループの新しい未来を築いていくという強い意思が、社内外に示されることとなりました。

人・情報・経験が交わる「CROSSINGエリア」

上野グループのオフィスの空間利用で大きな特長となるのが、グループ各社が共通で使用するコラボレーションエリア「CROSSINGエリア」の設置です。オープンミーティングなど大人数で多目的に使える「OCEAN」、リフレッシュスペースを含む「PARK」、Web会議や集中作業に適した「STATION」と3つに区分けし、社員が目的に合わせて自由に使えるようになっています。

複数人が集まって打合せをすることが多いOCEANでは「グループのいろいろな人がここで打ち合わせをしているので、近くを通ると、各社が今どんなことに取り組んでいるのか、雰囲気をつかめるようになっています」と小林さんはオープンな空間づくりのねらいを語ります。
オープンスペースのOCEANは、まさに海を想起させる青を基調とした配色が特徴的です。「当社は海と関わりの深い会社なので」と鶴巻さん。青との対比が美しいPARKの天井材の黄色は、上野グループの船のファンネル(煙突)のシンボルカラーとのことです。

人工芝を敷いた本物の公園さながらのPARKのカフェスペースは、社員同士の偶発的な出会いの場にもなっています。「会社が違うと、顔は知っているけれど仕事では関わらないという人がたくさんいます。こちらのオフィスでは、例えばコーヒーを入れに来る際に、たまたま顔を合わせて軽く言葉を交わすなど、グループ社員同士のコミュニケーションを大切にできるようになったと思います」と小林さん。

一方、STATIONではソロワークに集中できるよう、深い青や緑の落ち着いた配色に。吸音ボードで囲ったWEBブースは、コロナ禍で定着したオンライン会議の利用者が多く、移転後にブース数を倍増させたそうです。

ペーパーレス化を徹底し、情報共有の仕組みを一変

執務エリアでは、グループ10社それぞれの専用区画があるものの、間仕切りはあえて設けず、ワンフロアの開放感を活かしました。組織の境界のない連続空間に「グループのオフィス」が実現されています。

固定席を置くかどうかは各社に運用を任せており、一部ではフリーアドレスを導入しています。社員はその日の仕事に応じて、執務エリアの自席、オープンスペース、WEBブースなど自由に移動して働きます。

「業務内容に合わせて働く場所を選択できるように、というのはABW※の考え方に基づくものです。効率性を高めるためにも、社員がメリハリをつけて働ける環境の整備は、移転プロジェクトの中で重要なポイントでした」と鶴巻さんは振り返ります。
※Activity Based Workingの略。従業員が、その時々の仕事の内容に応じて、最も効率的に仕事ができる場所を選択して働くこと。

小林さんもそれに同意し、高い自由度でオフィス内を移動して働ける背景には、ICT環境の充実があることを示唆。「移転時には、徹底したペーパーレス化を進め、デジタルツールの導入で情報共有の仕組みを大きく変えました。その結果として、今のオフィスでは、パソコン1台を持ってさっと移動し、どこでも働けるという人が多いです」
「業務改革のため、ペーパーレスの必要性は以前から認識されていました。今回の移転が決まり、『もう絶対にやるしかない』と一気に取り組みが進みました」と鶴巻さんは話します。

オフィス環境が採用活動にもポジティブな変化を起こす

移転後ワンフロアになったことで、会社の垣根を超えたコミュニケーションが増え、営業面だけでなく業務全体でのグループ連携が取りやすくなったとお二人は手応えを感じています。「やはり同じオフィスで、すぐ話しかけられるという距離の近さは強いと思います」と小林さんは語ります。

採用活動でも、良い変化を感じていると話すのは鶴巻さんです。「来社された学生さんや求職者の方から『すごくきれいですね』と言っていただくこともあります。オフィスツアーにご参加いただくと、総じて志望度が高くなる傾向があり、就業環境は本当に大切だなと感じます」
落ち着いた雰囲気のエントランスは、来客からの評判が良い場所の代表例に。天井に散りばめた小さなダウンライトが特徴で、これは大航海時代、方角の"道しるべ"としていた夜空の星をイメージしているそうです。

さらに鶴巻さんは、新卒社員の入社後についても「毎年10名程度をグループ採用していますが、オフィスを集約したことで、各社への配属後も同期とオフィス内で会えて、つながりを保ちやすいようです。人事として私自身も、自分が採用した社員を近くで見守れるのは安心感があります」とポジティブな影響を口にします。

最後に、今後のオフィス活用について尋ねると、「オープンスペースでは、予想していた以上にミーティングが活発化していて嬉しい反面、モニタやホワイトボードが不足するようなときもあります。設備面ではまだまだ見直していく余地もあると思っています」と小林さん。鶴巻さんは、「コロナ禍での移転だったため、社内イベントの開催などは出遅れてしまったところもあります。CROSSINGエリアをうまく活用し、会社間の理解を深める機会をもっと充実させていきたいですね」と話してくれました。

取材を終えて~「&BIZ編集部」の発見ポイント~

取材時に通していただいた応接室の名前は「Olive」。大小合わせて4つある応接室は、他にも「Bougainvillea」「Freesia」「Hibiscus」と花の名前が付けられており、これは上野グループが、社船に花の名前を冠していることにちなんでいるとのこと。花は花言葉から選定したそうで、Oliveが「知恵」、以下それぞれ「情熱」「信頼」「勇敢」だそうです。こうした細かい点にも、グループのアイデンティティを大切にする姿勢が見られるオフィスでした。

Company Profile

上野グループ/明治2年に横浜で創業、産業や市民生活に欠くことのできない石油製品、ケミカル製品の輸送・貯蔵・販売、ソーラー事業、海洋環境事業などに従事する35社で構成されている。

Today's Speaker

上野グループホールディングス株式会社
人事部 副部長
鶴巻 彩子さん

上野トランステック株式会社
戦略推進部
小林 彩夏さん

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