2017.10.13

ヨコハマトリエンナーレ2017に行ってみませんか!あなたと社会を繫ぐ、現代アートに触れる。

三井不動産グループが協賛しているヨコハマトリエンナーレ2017が11月5日(日)まで、横浜美術館を中心とした各会場で開催されています。

世界各国から異なるバックグラウンドを持つ38アーティスト+1プロジェクトが発表している作品は多種多様。
現代アートはどうも苦手、と敬遠しがちな人でも楽しめる作品が多く展示されています。

そこで、この展覧会をより身近に感じてもらえるようなトピックスをいくつかご紹介します。


横浜美術館正面の外壁全面を用いたアイ・ウェイウェイのインスタレーション。
《安全な通行》2016 《Reframe》2016



トリエンナーレとは?

「3年ごとの」を意味するイタリア語triennaleで、3年に1度開かれる国際美術展のこと。
国際美術展としてはミラノ・トリエンナーレ(1923年〜)などが有名です。
なお隔年ごとに開催されるものをビエンナーレbiennaleといいます。

日本では1990年代半ばからトリエンナーレ、ビエンナーレが急増し、ヨコハマトリエンナーレ(2001年〜)の他、越後妻有アートトリエンナーレ(2000年〜)、瀬戸内国際芸術祭(2010年〜)などが知られています。


ヨコハマトリエンナーレの歴史は?

2001年に第1回が開催され、今回が6度目の開催となる日本の国際美術展の先駆者的存在であり、2011年より横浜美術館をメイン会場にしています。
国際的に活躍するアーティストの作品を展示するだけでなく、新進作家も広く紹介し、世界最新の現代アートの動向を提示してきました。

「メガ・ウェイブ─新たな総合に向けて」(第1回)、「アートサーカス(日常からの跳躍)」(第2回)、「OUR MAGIC HOUR─世界はどこまで知ることができるか?─」(第4回)など、毎回全体テーマを設け、世界から70組以上のアーティストがそのテーマに沿った作品を出品し、約3ヶ月間の開催期間中に20万人以上の人が入場します(参加アーティスト数、入場者は開催年によって異なります)。


「島と星座とガラパゴス」ってどういう意味?

現在開催されているヨコハマトリエンナーレ2017のタイトルは、「島と星座とガラパゴス」。
どんな意味なのでしょうか。

ちょっと長いですが、公式ホームページに掲載されていた文章を紹介します。

いま、世界はグローバル化が急速に進む一方で、紛争や難民・移民の問題、英国のEU 離脱、ポピュリズムの台頭などにより大きく揺れています。
本トリエンナーレでは、「接続」と「孤立」をテーマに、こうした相反する価値観が複雑に絡み合う世界の状況について考えます。

タイトルの「島」「星座」「ガラパゴス」は、接続や孤立、想像力や創造力、独自性や多様性などを表すキーワードです。
これらを手掛かりに、人間の勇気と想像力や創造力がどのような可能性を拓くことができるのか。
開港の地・横浜から新たな視点を発信します。

ヨコハマトリエンナーレ2017 公式ホームページより

確かに、世界はいま、繋がっているようで断絶されているのかもしれません。
右か左、敵か見方で二極化や分断化が顕著になってきた状況には、誰もが危うさを感じているのではないでしょうか。
一方、ガラパゴス島のように孤立しているからこそ、独自の生態系が発展しているという状況もあります。

「接続」することと、「孤立」すること。
ヨコハマトリエンナーレ2017では、このテーマを基に、参加アーティストがそれぞれにイメージを膨らませて製作した作品が展示されています。

日本でもSNSで「お友達」が増える一方で、「親友」に恵まれないと悩んでいる人は多いし、おもてなしで海外からの観光客を招こうとしている半面、移民の受け容れには消極的でもあります。アート作品を鑑賞しながら、そんな状況を考えるきっかけになるのではないでしょうか。


養老孟司さんも現代アート好き?

展覧会の開催に先立ち、2017年1月からさまざまな分野の専門家を招いて対話・議論を重ねる公開対話シリーズ「ヨコハマラウンド」が開かれています。
登壇者のなかには、解剖学者で東京大学名誉教授の養老孟司さんもいらっしゃいました。

もともと、人間が作るアートにはそれほど関心がなかったという養老さんですが、現代社会におけるアートの必要性について、独特のお考えを持つようになりました。
アートを「都市の解毒剤」ととらえている養老さん。公演の内容から一部を紹介します。

今の世の中、全ての信号がデジタル化され、そこは、0と1しかない完全な「コピー」の世界です。
私は非難しているのではなく、そうなることが、現代社会の必然であったのです。

ただ、この流れが世界を動かすようになっていることには、ちょっと気をつけたほうがいい。
0と1の間には「無限」があり、アートは、それを取り扱うものだと思うのです。

ヨコハマトリエンナーレ2017公式ホームページより


横浜で国際美術展を開催する意味は?

今、日本全国各地で国際的な美術展が開催されています。
そのなかで、横浜という土地で開催される本展にはどのような特徴があるのでしょうか?
展覧会を担当したコ・ディレクターの三木あき子さんにお話を伺いました。

「江戸時代までは一寒村に過ぎなかった横浜村は、1859年に開港場の一つとなり、急速にインフラが整備されました。そして、国内外の文物や人々が新たに交錯する開かれた場所になりました。ガラパゴス的な「孤立」から「接続」する場へと劇的な変貌を遂げたのです。今でも関内という地図上には存在しない地名に接続制と孤立の痕跡が残っており、その意味でも、今回の全体テーマと横浜は深い結び付きがあります。なので、現代アートとは無関係とも思える横浜の歴史的背景を意識的に視野に入れるようにしました。横浜赤レンガ倉庫や開港記念会館などの歴史的建造物を会場としていることも、横浜の史実や地誌などに言及する複数のアーティストを出品作家に含むことも、そうした視点に基づいています」


現代アートはビジネスに役立つのか?

現代アートは難解で良く分からない、という人が多いのは事実。
難解でもビジネスの役に立つならいいけど......、そう思うのも人の常。
では、現代アートはビジネスの役に立つのでしょうか? 思い切って三木さんに尋ねてみました。

「養老先生の言葉にもあるように、数値化できないもの、0と1の間をどう捉えるのか、というのはとても重要ですし、それはビジネスにもあてはまるのではないでしょうか。コンテンポラリーアートという言葉にとらわれる必要はありません。まず作品と対峙して、そのとき自分がどんなことを考えているのか、ご自身に問いかけてみてください。なかにはまったく反応しない作品もあるでしょう。でも、何か一つでも自分に問いかけてくる作品があると思います」

確かにバロック絵画や印象派絵画のような分かりやすさは現代アートには無いかもしれません。
作品を理解するのに長い時間を要し、でも結局理解できないままに立ち去ってしまうこともあるでしょう。
でも、その考察する時間こそが大切なのかもしれません。


注目の作品は?


上 オープニング前日の記者発表の様子。 Photo: KATO Ken
下 三木あき子さん ©Aterui
いずれも写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会


11月5日(日)まで開催されているヨコハマトリエンナーレ2017では、横浜美術館を中心に、38アーティスト+1プロジェクトが展示されています。
どんな作品があるのか、編集部が注目したお勧め作品を会場ごとにご紹介します。


横浜美術館


アイ・ウェイウェイ
《安全な通行》2016 《Reframe》2016



作家がここ数年取り組んでいる難民問題に関連し、ギリシャのレスボス島に辿り着いた難民が実際に着ていた約800着の救命胴衣と救命ボートによって横浜美術館正面の外壁全面を用いたインスタレーション。

北京生まれで、現在はベルリンを拠点にしているアイ・ウェイウェイはここ数年難民問題に取り組んでいて、この作品では難民一人一人の苦難、尊厳について観る者に問いかけています。

作家はこう語っています。
「私は、人類はひとつであると考えています。 ひとつである、という状況のもと、私たちは、全ての境界を無くし、同じ価値を共有し、自分以外の人々の苦悩や悲劇を始めとするさまざまな苦難に関わるべきと考えています。 アートは人と関わるための架け橋となり、人間の価値を認め合うきっかけをつくり、コミュニケーションを深め、そして、広げることを可能にします」



オラファー・エリアソン
「Green light ─アーティス ティック・ワークショップ」



コペンハーゲン生まれのオラファー・エリアソンが展開する、「Green light ─アーティス ティック・ワークショップ」。
これは世界中の難民や移民に対して、希望の光となるグリーン・ライト(青信号)を灯すことを目的に、慈善団体と協働して世界各地で展開しつつあるプロジェクトで、シンプルな棒とジョイント、緑の電球を使って、参加者が協力して一つの「Green light」を作成します。

難民など社会的に孤立する参加者たちは、組立式のライトを共に制作し、さらに言語や料理などのレクチャーを受けることで自立を目指します。
「ワークショップは全員が教え、学ぶ立場にあります。互いが知識や学びを与え合うことができるのです」(オラファー・エリアソン )。



川久保ジョイ
左《テラ・アウストラリスのためのスライス》2017
右《千の太陽の王国/明るい部屋》2017



川久保は金融ディーラーからアーティストになった経歴の持ち主。
分断され、価値が変わってしまった土地の意味や、異なる言語の間で揺れるアイデンティティの問題などを作品にしてきました。

本展では、自身の個人史とも重ね合わせながら、未知の土地やユートピアの象徴としての「南」に向けられた視点に焦点を当てています。
展示の中核をなす《テラ・アウストラリスのためのスライス》には、イギリスからジブラルタル海峡を通って南極方向を見た時の地図と、南半球から見える星座が、スライスされた地球儀のような形状の紙に描かれています。

そこには、歴史的事実と川久保の思考の痕跡がマインドマップとして重ねあわせられており、展示全体を理解するうえでの設計図のような役割を果たします。
《千の太陽の王国/明るい部屋》は福島の帰宅困難地域に感光紙を埋めて作られた作品。
ドアの中には光なしで土の中でフィルムを感光させた作品が展示されています。

*トリエンナーレ開催期間中、川久保ジョイによる自然の美しい光景や文字を駆使した映像作品がKAAT神奈川芸術劇場の巨大なスクリーンで体験することができます。詳細は公式ウェブサイトで。



マップオフィス
右《慣らされた島(日本)ーファンタジーの島》2017
左《色覚障がいのための島》2014



日本の学生とともに島や領海、領域に関する日本の文学や映画をリサーチ。
「島」に関連する言葉を抽出して定義や背景を考察した中から、複数の島々を群島のように配置し、「島」が持つ多義性を示したインスタレーション。
村上春樹や安部公房など、日本の小説の一節が朗読されている作品も。
《色覚障がいのための島》と題された作品は香港から運ばれたウニの殻で製作されました。



ブルームバーグ&チャナリン
《ロンドン自爆テロ犯(L-R) 2005年7月7日にルートン鉄道駅でハシブ・フセイン、ジャーマイン・リンゼイ、モハメッド・シディック・カーン、シェザッド・タンウィアが防犯カメラによって撮影された。2010年4月22日木曜日、ザ・ガーディアン紙、ポータブル・モニュメント》2011



ロンドンの自爆テロ事件でカメラに写った容疑者の姿を、色彩だけを抽出したイメージに置き換えている作品。
鑑賞者が積み木を自分で積み上げていきます。

作家はアフガン戦争にも従軍したジャーナリスト。
戦争を写真報道だけでなく別の視点で表現するためにアーティストになりました。



ジョコ・アヴィアント
《善と悪の境界はひどく縮れている》2017



横浜美術館正面入口から入ってすぐ目に飛び込んでくる、2000本近い竹を使ったインスタレーション。
インドネシア出身の作家は母国で長年人々の暮らしを支えてきた竹を独自の手法で編み上げる作品を通じて、自国で失われつつある伝統文化、人間と自然の共生について考察を重ねています。
また、日本のしめ縄がモチーフになっており、人や自然・宗教などの分断や対立、そしてそれらをまとめ上げる力を示してもいます。


横浜市開港記念会館


柳 幸典
《Project God-Zilla:横浜市開港記念館の地下》2017



瓦礫から眼光を放つゴジラをモチーフとした作品や憲法第9条をLEDに表すなど日本の現状を問いかける作品が、薄暗い地下空間にマッチしています。


横浜赤レンガ倉庫1号館


クリスチャン・ヤンコフスキー
《マッサージ・マスターズ》2017



「人の視点を柔軟にする」という意味で、アーティストもまたマッサージ師であると主張する作家による参加型アート。
マッサージの機械に身を置き、公共彫刻の気をよくするために活動するマッサージ師の診断の映像などで、ある時代の象徴でありながらも、歴史と分断したかにみえる公共彫刻と人をつなぐ試みがユーモラスに行われています。



宇治野宗輝
《プライウッド新地》2017



記者会見中も制作まっただ中だったという作家は美術作品の輸送に使われる大型の木箱をビル群に見立て、音や光、映像で演劇的な空間を創造しました。
物質社会に個人がどう向き合い、いかに接続し、それを再構築できるのかを試みた作品です。



小沢 剛
《帰って来た K.T.O》2017



グローバルに活躍した歴史上の人物を題材に、事実とフィクションを重ね合わせ物語を構築するシリーズに取り組んでいる作家。
本展では横浜生まれの岡倉天心のインド・コルカタでの足跡を辿り、現地の職人や音楽家に製作を依頼した看板絵と音楽を含む映像で構成される作品を発表し、岡倉の目を通して現在と近未来の世界の危機を予見しています。


氷川丸にも関連作品が展示されます。



今回は展示会場を飛び出し、横浜の歴史と街に出会う試みとして「ヨコハマサイト」と呼ぶ場所や施設を紹介しています。
山下公園に係留する日本郵船氷川丸の「旧三等食堂」(通常は非公開エリア)では、アーティストの田村友一郎が制作したインスタレーション《γ(ガンマ)座》を鑑賞することができます。
田村は、本展に関連する施設、歴史的背景をもつ場所や建築物を星座のように結びつけ「γ(ガンマ)座」を構成しました。
横浜に座し、かつて主役として栄えた技術や建物にまつわるストーリーを、かつての船舶通信技術であるモールス信号を織り交ぜながら、表現します。


シャトルバスもアートです。

ジェニー・ホルツァー《自明の理 より》1977-79
Installation view, Yokohama Triennale 2017
Photo: TANAKA Yuichiro
©2017 Jenny Holzer, member Artists Rights Society
写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会


会期中、ヨコハマトリエンナーレ2017チケットで利用できる、横浜美術館/横浜赤レンガ倉庫/BankART Studio NYK/黄金町バザールを結ぶ会場間無料バスを運行します。

実はこのバスも立派な参加作品。
メッセージ性の強い言葉を公共の場に浸透させる活動を続けて来たジェニー・ホルツァーの作品です。

また、みなとみらいエリア、関内エリアなどに40か所以上のサイクルポートが設置されており、どのポートからも貸し出し/返却が可能な電動アシスト付き自転車を借りることもできます。
ベイバイクのご利用方法等はこちらをご覧ください。

開催時間、入場料金などの詳細は公式ホームページでご確認ください。

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