
2016.02.01
COMMONS PAGE 音楽コラム 第1回「名曲の影にビジネスの英断アリ!?」
「COMMONS PAGE」では、ビジネススキルのヒントにもなる、音楽コラムを掲載していきます。案内人は音楽ジャーナリスト兼DJとして活躍中の渡辺克己さん。
今回はインディ・レーベルの金字塔として知られるアメリカのモータウンについて、創業者のビジネスセンスや創業秘話などを交えて紹介していただきます。(※ 本連載は不定期です)
強固な意志と、ナンパな下心。心躍らせるモータウンの名曲は、そんな絶妙なバランスの選択から生まれました。
インディ・レーベル。現在では、大手のレコード会社に属さずに運営する、独立系(インディペンデント)レーベルのことを呼びます。多くのインディ・レーベルは、ヒット至上主義の大手とは一線を画し、自由な音楽を作りたいという関係者やアーティストが、自ら立ち上げるケースがほとんど。でも、レコード・ビジネスの歴史を振り返ってみると、大きなビジネスとして成立し出したのは1930年以降と、その歴史はまだ100年に満たない短いもの。1960年までの多くのレコード・レーベルのほとんどは、インディペンデントであったと言えます。
では、インディ・レーベルで最大の成功を収めたのは、どの会社でしょう。マイケル・ジャクソンが所属したジャクソン・ファイヴ、映画の主題歌にも起用され永遠の輝きを放つ「My Girl」のザ・テンプテイションズ、ダイアナ・ロスをスターダムに押し上げた「Stop! In The Name Of Love」で知られるザ・シュープリームスなど。数々の名曲とスターを輩出し続けたモータウン・レコーズ(以下、モータウン)ではないでしょうか。このモータウンの創始者は、1950年代に音楽家として活動していたベリー・ゴーディ・ジュニア。鳴かず飛ばずだった音楽家は、レコードショップの運営、時には地元のデトロイトにあるGMのライン工として働くなど、かなり苦労したそう。しかし、60年を向かえる目前、長い苦労が報われることになります。歌手で、天才的なメロディメイカーでもあるスモーキー・ロビンソンと出会い、まず1959年にタムラ・モータウンを設立します。62年にスモーキー・ロビンソン& ザ・ミラクルズ名義で発表した「You've Really Got A Hold On Me」は、アメリカ国内で大ヒットを記録。この曲は、ザ・ビートルズがカバーし大ヒットを記録したことで、スモーキー・ロビンソンの名前、そしてタムラ・モータウンというレーベルを世界中に拡げるキッカケとなります。スイートなコーラスと、かなりコジらせた片思いを歌ったスロウバラードは、今聴いても中2感があり、どこか微笑ましくもありますが、ブラックミュージックの名曲であることに間違いはありません。
国内での大ヒットのほか、ヨーロッパでも人気を得たタムラ・モータウンは、大小別レーベルを作ることになります。その総称がモータウン・レコードというワケです。
創業者のベリー・ゴディは、さらに商才を発揮します。60年代まで、黒人から圧倒的な人気を誇ったモータウンですが、ゴディはさらにヒットを生み出すにはどうするべきかを自問します。そして、『ブラックミュージックを、いかに白人層に伝えるか』というひとつの答えを導き出します。モッズを中心にしたイギリスの若者の間では、ブラックミュージックは人気でした。しかしそれは当時、まだ最先端を行く一部の人たちのみの嗜好であり、一般的なものではなかったのです。
ゴディはポップミュージックを探求する中で、ある白人サウンドメイカーのヒット曲と出会います。女性ボーカルグループ、ロネッツ「Be My Baby」で知られるプロデューサーで作曲家のフィル・スペクターの楽曲群です。彼は弦楽器のオーケストラ、管楽器のブラスセクションを録音し、それを幾層にも重ね、重厚かつ豪華なサウンドで老若男女を問わない白人層から人気を呼んでいました。
こうしたサンドメイクを取り入れたのが、先にも取りあげたザ・シュープリームス「Stop! In The Name Of Love」でした。オープニングからタイトル名をコーラスに乗せたキャッチーなメロディ。そしてオーケストラとブラスのスリリングな旋律が人々の心を捉え、大ヒットを記録しましたが、当時モータウンを贔屓にしてきた黒人リスナーや、R&Bを好む白人の若者たちからは、『(白人層に)媚を売った曲』だと、悪評の方が高かったという事実も。確かに、ハードコアを好む向きには若干ナンパなサウンドであり、ダイアナ・ロスのボーカルもアレサ・フランクリンのような太さはありません。しかし、こうした声をよそにゴディは、ザ・シュープリームスで同路線の「Baby Love」や「Baby, Love Child」を制作し、大ヒットを記録。世界一のインディ・レーベルを築き上げました。
さて、レーベル(会社)を運営するには、厳格な意志と独創性が必要とされます。しかし、時として『時代と寝る』、しかもべったり添い寝するくらいの柔軟性と、少々ナンパな心が必要なのかもしれません。モータウンのポップ路線というゴディの英断には、現代を生きるビジネスマンにもヒントを与えてくれるような判断が隠れています。ビジネスチャンスや取引が大きくなるほど、『利益は得られるかもしれないけど、大切な何かを失うかも......』という恐怖と戸惑いがあるハズです。そんな時こそ、時流をよく見計らいながら、流行に身を任せてみる。モータウンは72年に本拠地をデトロイトからロサンゼルスに移し(現在はNY)、大手レーベルと合併(11年にユニバーサルレコードと)するなど、かなりナンパな選択を繰り返して現在に至っています。しかしその代わり、70年~80年にはスティーヴィー・ワンダー「Higher Ground」などのニューソウル3部作、そしてマーヴィン・ゲイ「What's Goin'on」など、革新的な作品を発表します。たとえそれまでの何かを失っても、信念を持って行動すればそれ以上のリカバリーを得られるものだと立証しているかのようです。モータウンのスローガンは『The Sound Of Young America』。新時代の幕開けを宣言したような名文句で、歴史的傑作を生み出していきました。その影響を大きく受け、92年に生まれたのがクルーエル・レコード。中でも、ラブ・タンバリンズの作品は、ソウルフルなエリのボーカルが海外でも高い評価を獲得しています。英< Straight No Chaser Magazine>では、デビューシングル「Cherish Our Love」が『The Sound Of Young Tokyo』と評されました。その後、発表したデビュー「Alive」(95年)は、バンド編成ながらシンプルな音作りでソウルからレゲエ、ロックまでをミクスチャー。発表から20年経った今なお、意外な輝きのある名盤となっています。
渡辺克己(わたなべ・かつみ)
「BRUTUS」「& Premium」(ともにマガジンハウス)など、さまざまな雑誌で活躍する音楽ジャーナリスト。アーティスト取材も多くこなす。夜はDJとしての顔も。
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