2023.10.20

多様な社員が活躍し、つながり合える本社オフィスを実現

2023年3月、三井化学株式会社は東京ミッドタウン八重洲に本社を移転しました。その半年後となる9月、同社の新オフィスを訪ね、6名の社員の皆さんにインタビューを実施しました。前半では、総務・法務部の4名の方々に移転プロジェクトとオフィスづくりについて、後半では、人事部の2名の方に同社が注力するDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の取り組みについてお話を伺っています。

目次

18階エントランス コーポレートカラーの青が映える、18階エントランス。

「変化・変革」への強い意思を示した本社移転

三井化学が入居するのは東京ミッドタウン八重洲の17~19階。グループ会社をあわせて約1,500名の従業員が在籍しています。各フロア、エレベーターホールを中央に囲んだ構造で、オフィス内にはほとんど間仕切りのない開放的な空間が広がっています。

「一般的に同規模の本社移転には2年はかかるといわれる中、当社は1年3カ月の短期集中プロジェクトとなりました。社内の声を集めながら決めるべきことも多く、苦労は大きかったですね」と振り返るのは、移転プロジェクトリーダーを務めた総務・法務部の佐藤裕紀さんです。
本社の移転決定は2021年。これに先立ち、三井化学では同年、2030年に向けた長期経営計画『VISION 2030』を策定し、「未来が変わる。化学が変える。」をスローガンに掲げていました。同部の鈴木雄大さんは、「移転は『VISION 2030』達成を目指す一環であり、変化・変革への経営トップの強い意思を伝える狙いがありました。また、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の全社展開に際し、東京ミッドタウン八重洲の高速通信設備が整った環境も大きなメリットでした」と話します。

折しも、移転計画が進んだのはウィズコロナの状況下であり、オフィス自体の役割が変化しているというのが社内の共通認識でした。同部の浅利香里さんは、「感染拡大によりテレワークの人が増え、どこでも働けるようになった中で、あえて新たなオフィスをつくる意義をチームで話し合いました。集まることで価値を生む場所とするため、社員同士がつながり合えること、皆が多様性を尊重しながら、最適な環境を選択して働けることを意識しました」とコンセプトを語ります。

オンライン会議用ブースやフリースペースを活用し、柔軟に働く

社内のコミュニケーションを深め、多様な働き方を促進するため、当初から決定していたのが、部署ごとのフリーアドレス化と、予約なしで自由に使えるフリースペースを各フロアに置くことでした。急増したオンライン会議に対し、1名用と4名用合わせて32台のブースを各所に配置しました。エントランスと応接室・会議室は17階に、役員エリアは18階に集約しています。

来客用会議室 来客用会議室は、「SKY(空)」「LAND(地)」「OCEAN(海)」「EARTH(地球)」
の4つにエリア分けされる。

佐藤さんは、「当初、役員エリアは最上階の眺めの良い位置を予定していましたが、それを社長に伝えると『一番環境の良いスペースは、むしろ社員が使うべき』と即答がありました。それで、東京駅と皇居の見晴らしを楽しめる19階西側は事業部の執務エリアに充て、社内のさまざまな機能や動線を考え、今の形にまとめています」と話します。

フリースペースのテーマは、17階が「ギャラリー」、18階が「レジャー」、19階が「アクティブ」です。各フロアで趣向を変えたさまざまな什器を入れることで、今日はここを使ってみよう、など気分に応じて働けるようにしました。例えば「レジャー」の18階のフリースペースは、ハンモックやキャンプチェアが並ぶ、なんとも楽しげな雰囲気。テント内のテーブルを囲んだミーティングも日常風景になっているそうです。

18階フリースペース 18階フリースペース。随所に置かれたグリーンがくつろぎ感を演出。

同じく総務・法務部の斉藤寛さんは、「固定席をなくしたことで、その日たまたま隣に座った人と雑談を交わすなど、偶発的な交流が生まれています。特定の人と話す必要があるときも、あらためてアポイントをとってというよりは、さっと話しかけて都合を聞ける気軽さが生まれました」とフリーアドレス導入後の変化を語りました。

フリーアドレス化×ペーパーレス化で総面積を削減

移転前に比べて、3フロアの総面積は2割減に。「デスク数は全社員の7割程度としました。出社率はその時々で変動するものの、フリースペースがあることで、仮に全員出社しても対応できるようになっています」と斉藤さん。
徹底してペーパーレス化を進めてキャビネット等もなくし、書類は8割を削減しました。以前は自席が書類の山に埋もれた人も少なくなかったそうですが、現在は各人が個人ロッカーに保管できる程度に留めています。浅利さんは「私も実は、紙に囲まれているタイプでした」と笑い、「総務はもともと書類を扱うことが多く、最初はペーパーレスなんて難しいのでは...と思いましたが、やってみると意外に思い切った削減ができました。毎朝、書類が積まれていないすっきりした状態で仕事が始められるのは、気持ちが良いです」と話します。

フリースペース フリースペースにはさまざまなタイプの席が用意され、その日の気分や仕事内容に合わせて選択可能。

社内だけでなく、24階にある入居者共用の&BIZラウンジを仕事に活用する人もしばしば。佐藤さんは「大規模な懇親会などでの利用はもちろん、ちょっと気分を変えて仕事したいときには私も24階に足を伸ばします。より高層階で見晴らしが非常に良く、開放感がありますね」と、ビル全体の機能を活かした働き方に触れます。

移転から半年を経て、三井化学ではオフィスに関する社員アンケートを実施。現在は、その結果分析を進める最中にあります。鈴木さんは、「移転がゴールではなく、より働きやすいオフィスづくりへの挑戦に終わりはありません。改善すべき点は改善しながら、社員同士のつながりが広がっていくオフィスを目指していきます」と今後への姿勢を示します。

多様な人にとってのより働きやすい環境へ

今回のオフィス移転のもうひとつの重要な側面は、DE&Iの取り組みが加速したことです。人事部の安井直子さんは「当社は『VISION 2030』のもとで、ビジネスの変革期を迎えています。事業の幅を広げ、多様な社会課題を解決していくためには、さまざまな価値観を受け入れ、"違い"を力に変えていく組織であることが欠かせません」と背景を語ります。

盲導犬を連れて出社する従業員の姿 盲導犬を連れて出社する従業員の姿も、社内では当たり前の風景。

もともと三井化学では、2006年に女性活躍推進をスタートして以来、外国人や障がい者、LGBTQへと取り組みの幅を広げてきており、今回の移転を好機に、オフィス内の点字表示を大幅に増やすなど、人事部所属の視覚障がい者が移転プロジェクトに加わり、ハード面でもできる限りの対策を進めました。

点字・立体表示により、会議室の番号・場所をわかりやすくしたマップ 点字・立体表示により、会議室の番号・場所をわかりやすくしたマップ。

同じく人事部の水橋紀恵さんは、「移転という大きな環境変化に向けて、前オフィスでの課題を踏まえ、社内でさまざま具体策を話し合うことができたのが良かったと思います」と振り返ります。

東京ミッドタウン八重洲のオフィス棟の女子トイレでは、"『三井のオフィス』が進めるDE&I"という取り組みの一環で、生理用品が置かれるという心配りも。「テレワークが定着する中、いざ忘れて困ったとき、もらえる相手が職場にいるとは限らない――そんな女性社員のお悩みを抱えていた中、時を同じくして三井不動産さんでもこういった課題に取り組まれていて、東京ミッドタウン八重洲のオフィストイレに設置いただいたんです。実際にとても助かっている、という声も聞いており、今後、同じことを弊社の各地の工場にも展開できないか検討中です。本社より女性比率が低い工場こそ、こうしたちょっとした配慮が働きやすさを左右します」と安井さんは述べます。

DE&I推進をめぐり、他社とも交流を深める

三井化学では、性的マイノリティの社員への配慮のため、2022年度からは会社のさまざまな制度を、同性パートナーを持つ人にも拡大しました。「例えば、法的な結婚相手ではない同性パートナーの介護や、その子どものための育児休暇を取得できるようにしています」と安井さん。
こうした新制度の利用を促進すべく、移転後に導入したのが「ALLY ストラップ」です。同社のオフィス内でしばしば見かける、レインボーカラーをあしらったストラップを身につけた人は、 LGBTQへの理解・支援を表明する「ALLY (味方・仲間)」の証。安井さんと水橋さんもストラップを着用しています。水橋さんは、「ALLYが周りにたくさんいるということを知り、 制度を安心して使ってもらいたいです」と想いを語ります。

2023年6月には、ビルオーナーの三井不動産、および同じく東京ミッドタウン八重洲に入居する住友生命と共に、LGBTQへの理解促進をテーマとする合同イベントを実施。「DE&Iをめぐる課題は各社に共通するものも多く、目指す姿は重なるのだと思います。せっかくこのビルに入居しているので、こうした企画には積極的に参加し、他社さんとも交流を深めたいですね」という水橋さんに、安井さんも同意を示します。

最後に、DE&I 推進について安井さんは「私自身は、周囲に自分とは全然違う人がいると新たな視点に気づき、おもしろさを感じます。イノベーションという大げさなものでなくても、そのおもしろさが今までにない発想やアイディアにつながるなど多様性の価値を実感すると、DE&Iは自然に進むのだと思っています」と笑顔で話してくれました。

取材を終えて~「&BIZ編集部」の発見ポイント~

サウンドマスキングとして川のせせらぎ音がかすかに流れる、同社のフリースペース。植栽の多さやくつろいだインテリアと相まって、何だか一瞬、都会のビルにいるのを忘れてしまいそうです。また、各フリースペースに1カ所ずつ、コーヒーマシンが設置され、スナックなども購入できます。あえて1カ所に絞ることで、「そこまで取りに行く」という動きを生み、自然と人が集まる仕組みをつくっているそうです。社員同士のつながりを大事にする工夫が随所に見られるオフィスでした。

コーヒーマシンや冷蔵庫を備えたフリースペース コーヒーマシンや冷蔵庫を備えたフリースペースの一角。

Company Profile

三井化学株式会社/110年超の歴史のもと、世界約30カ国に事業を展開し、時代のニーズに応える製品を送り出し続ける総合化学メーカー。ライフ&ヘルスケア・ソリューション、モビリティソリューション、ICTソリューション、ベーシック&グリーン・マテリアルズの4つの領域で、さまざまな社会課題の解決に貢献する。

Today's Speaker

三井化学株式会社
総務・法務部 秘書室長 佐藤 裕紀さん
総務・法務部 総務グループリーダー 鈴木 雄大さん
総務・法務部 課長 斉藤 寛さん
総務・法務部 主席部員 浅利 香里さん
人事部 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョングループ グループリーダー 安井 直子さん
人事部 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョングループ マイノリティインクルージョンチームリーダー 水橋 紀恵さん

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