2023.10.06

三井不動産の「課題解決」はなぜ、ここまでやるのか

コロナ禍でリモートワークが浸透し、"出社する意味"が再考されて数年が経つ。
オフィスの存在意義が変容するなか、どのようにオフィスを運営すればいいか、どうすればオフィスでの従業員の生産性を上げられるか、頭を悩ませている経営者も多いはずだ。
そんななか三井不動産は、テナント企業の課題解決にコミットするために、さまざまなイベントやセミナーなどを行っている。
イベントやセミナーの数は年間100以上。
テナント企業社員のウェルビーイングを向上させる施策として、クイズ大会やスポーツフェス、育児・介護セミナーなどを行い、組織の活性化に貢献しているそうだ。
本記事では、そのなかの1つのイベントに密着。イベントが企業にどのような刺激を与えているのか、そしてデベロッパーである三井不動産がなぜイベントを開催するのか、その理由に迫った。

SDGsイベントに2600人超の来場者

7月下旬の週末。その日の最高気温は34度にもかかわらず、東京ドームシティのイベント会場には、2600人以上の親子連れが来場した。
"SDGsを親子で楽しく体験しながら学ぶ"をテーマとした、『三井のオフィス』SDGsフェス 夏のわくわくキッズワールド2023(以下、SDGsフェス)。
三井不動産が運営するオフィスビルに入居するテナント企業を含む、19社の協賛により開催され、各企業のサステナブルな社会の実現に向けた取り組みの紹介や、親子で学ぶワークショップなどが展開された。

SDGsフェス 夏のわくわくキッズワールド2023 2600人以上の親子連れが来場し、大盛況に。

初開催のイベントにもかかわらず、会場は盛況でどのブースにも子供たちの声が溢れていた。
3歳児連れの親御さんは、JTBの昆虫展示が印象に残ったという。
「うちの子は、普段、虫を嫌っているのですが、本物のクワガタやカブトムシの展示を興味深そうに見ていました。東京では目にする機会がないので、良い体験ができたと思います」
パナソニックのブースでは、50人ほどの子供たちが椅子に座って、アフリカの電気のない地域に再生可能エネルギーを活用するランタンを届けるプロジェクトの映像を試聴していた。
その後、クイズが行われ、正解した子供たちがはしゃぐ楽しげな様子が伝わってくる。
子供の対応に追われるスタッフが、合間を縫って取材陣に対応してくれた。
「パナソニックでは、これまでも夏休みにお子さんを呼んで自社の取り組みを周知したり、学校の課外活動のような形で発信したりしてきました。

パナソニックのブースで、来場記念の動画撮影に応じる親子 パナソニックのブースで、来場記念の動画撮影に応じる親子。
動画はパナソニックのSDGsのサイトで放映されるという。

ただ、参加率がそこまで良くなかった。多くのご家族に参加いただけるようなイベントを、企業1社だけで企画するのは、難しいと感じています。
今回は、多くの企業が参加する大掛かりなイベントで、親子で来場しやすい形になっており、ブースにもたくさんの人が足を運んでくださいました。
SDGsフェスの実施を大変嬉しく思っています」
今では懐かしい"紙芝居"のブースを出展していたのは、日立ビルシステム。ブースの前には多くの親子が足を止めていた。
「紙芝居だと、親世代は懐かしいと感じてくれるし、子供たちは珍しさで関心を持ってくれます。
この紙芝居は、エレベーターとエスカレーターの安全な乗り方を説明しています。学校などではあまり習わないけれど、メーカーとして子供たちに知っておいてほしいと考えています」
一般来場者のほか、社員の家族もブースに足を運んでくれているそうだ。
「同僚のご家族が"◯◯の妻です"などとお子さんを連れて遊びに来てくれています。同僚のお子さんに親の仕事を説明したり、配偶者の方にご挨拶したりする貴重な機会になっていますね。
わが家も娘が明日、遊びに来る予定です」

エレベーター・エスカレーターの安全な乗り方を解説 日立ビルシステムはあえてレトロな雰囲気の展示で、エレベーター・エスカレーターの安全な乗り方を解説。

7歳と5歳の2児を連れた30代夫婦は、回遊したブースを振り返りつつ次のように語る。
「たった今、家族で宇宙飛行士体験のブースを見てきたところです。SDGsがテーマということで、夏休みの自由研究のネタを見つけられたらと思って来ました」

YAC東京日本橋分団、タカラトミー、ユーグレナによる宇宙飛行士体験 YAC東京日本橋分団、タカラトミー、ユーグレナによる宇宙飛行士体験。

ここまで大掛かりなイベントをなぜ、三井不動産が主催したのか。三井不動産 ビルディング本部 法人営業統括一部主事の木村庄佐氏は、次のようにこう語る。

三井不動産株式会社 ビルディング本部 法人営業統括一部法人営業推進グループ 主事 木村庄佐氏

「三井不動産はテナント企業様の経営課題の解決に寄り添うパートナーを目指しています。各社の課題をヒアリングし、一緒に解決する企業でありたいと考えており、普段から人事・総務部門の方々とコミュニケーションを取り、さまざまな施策を行っています。
今回のSDGsフェスは"企業のSDGsについての取り組みを発信したいが、自社だけで情報発信をしたり、イベントを開催するのは人手も予算もかかったりする"というテナント企業様の悩みを聞いたことがきっかけでした。
複数の企業を集めてイベントを行えば、たくさんの親子連れが足を運び、会場内を回遊しながら各企業の取り組みについて理解を深めてくれます」
イベント開催にあたっては、個別企業のブース設置以外のほとんどの業務を三井不動産が担っているという。
「イベント実施に際しては、会場の確保や、ブースのレイアウト設計、来場者向けのパンフレット作成まで、当社社員が中心になって行っています。
また、来場者向けの広告は、ウェブでのリリースのほか、テナント企業の社員向けに告知をしたり、オフィスにデジタルサイネージ広告を打ったり、当社の商業施設の会員向けにメルマガを発信したりと、三井不動産が持っているさまざまなオウンドメディアを活用しました。
本イベントは初めての開催なので、どれくらいのテナント企業様が参加してくださるのか、来場客がどれくらいいらっしゃるのかが未知数でしたが、多くの方が笑顔で来場してくださり安堵しています」(木村氏)

三井不動産主催の「オリンピアン高橋選手に学ぶ走り方教室」 三井不動産主催の「オリンピアン高橋選手に学ぶ走り方教室」

年間100以上ものイベントを実施

三井不動産は、年間で大小合わせて合計100以上のイベントを実施しているという。
「全国に150棟あるオフィスビルの従業員全員が参加できる、大規模なイベントも行われます。マラソン大会やクイズ大会、商業施設でのお得なキャンペーンには数百人から数千人が参加されます。
その他、介護や女性活躍、ビジネススクールなどのセミナーも開催。また、新宿のど自慢大会やマルシェ、ビアガーデンなど個々のビルで開催しているイベントもあります。
ただ盛り上がればいいというのではなくて、オフィスで働く全ての従業員に興味を持ってもらえるよう、幅広いイベントのラインナップを用意しています」
こうしたソフト面のサービスを行う背景について、木村氏は次のように説明する。

木村庄佐氏

「各テナント企業様の"SDGsへの取り組み"を発信するだけでなく、従業員や企業同士の交流を深めていただくことも重要だと考え、交流の機会もご用意しました。
土日の子供向けの学び系のイベントであれば、社員の方がご家族を連れて遊びに来やすいですよね。
職場の取り組みや雰囲気を体感できる場を、楽しみながらも共有できることで、ご家族にとっても仕事に対する理解が深まります。
こうした多面的な体験価値を通じて、三井不動産のオフィスで働くメリットを強めたいと考えています」

働きやすさに直結する"ゆるいつながり"

SDGsフェスに出展していたEY Japanの松尾竜聖氏は、従業員間、家族間のつながりや交流のメリットについて次のように語る。

EY Japan 株式会社 Japan Well-being 推進リーダー 松尾竜聖氏

「今日、会場を見ていて家族連れが非常に多く見受けられました。
家族が仕事を理解し、応援してくれるって、実はすごく重要です。
例えば、家族から仕事への理解がないと、"なんでこんなに遅くに帰ってくるの?"と冷ややかな目を向けられることがあります(苦笑)。これでは幸せな働き方にならないですよね。
会社視点で言うと、家族が仕事を応援していない状況は、社員の退職リスクにつながります。
今回のSDGsフェスのような機会に、仕事が社会のために役立っていると実感してもらえれば、家族も誇らしく思えて応援してくれる。
家族を巻き込んでエンゲージメントを構築できたら、従業員も働きやすくなるはずです」
こうした交流を、"ゆるいつながり"と表現する松尾氏。
「長く一緒に働いていくうえでは、その人がどんな人柄か透けて見えることが重要です。
そのためには職場で仕事の話をするだけでなく、社員同士の人間らしい一面が垣間見えたほうが信頼関係もできる。
そういう関係を構築する場所として、三井不動産さんが主催してくださる各ビル単位でのイベントや日比谷エリアを中心とした企業の垣根を越えたイベントなどには非常にお世話になっています」

デベロッパーと入居者の新しい関係

今回のようなイベント以外にも、三井不動産では、オフィスの困りごとの解決に向けてテナント企業に寄り添う体制を整えている。
「近年では、"COLORFUL WORK"をスローガンに、自分のライフスタイルに合わせて自由に柔軟に働くことができる多様な選択肢を提供してきました。
例えば、全国約150拠点の法人向け多拠点型シェアオフィス"ワークスタイリング"では、出先からオフィスに戻らず仕事をしたい人や、自宅近くで仕事をしたい人、出張先で仕事をしたい人など、時間や場所に縛られない多様な働き方に対応する自由なオフィスを提供しています。
それに加えて、週何回くらいの出社がベストなのか、会議室の数や社員一人一人のデスク面積はどれくらい確保すべきか、といった企業の抱えるワークスタイルについてのご相談にも一緒に考えて、ご協力してきました。

木村庄佐氏

"お困りごとがあれば、些細なことでも相談してください"というスタンスです。
それこそお昼ご飯を食べる場所が狭いとかでも構いません。三井不動産は『おせっかいな大家』を目指しているんです」(木村氏)
テナントに手厚いサービスを提供している三井不動産。
その先に見据えているのは、オフィス周辺地域の活性化だ。
「グループ企業を巻き込んでイベントや課題解決を進めていくことで、オフィスビルがある街そのものを活性化させていきたいと考えています。
テナント企業様の企業価値が上がり、そこから地域や街全体が盛り上がっていく。こうした大きな好循環を生み出していきたい。
サービスや商品のマーケティングを必要とされているテナント企業様には、商業施設部門の担当者を紹介することもありますし、ビジネスの提携先として他の三井グループの企業におつなぎすることもあります。
三井不動産を『うまく活用してやろう』というくらいの気持ちでご相談していただけたらと思います」

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執筆:佐藤隼秀
編集:金子祐輔
撮影:岡村智明
デザイン:藤田倫央

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