
2016.01.04
建築家 隈研吾の「クリエイティブの作り方」
こだわっていた常識を壊してくれる人、モノとの出会いが、自分の発想を広げてくれる。
10月16日〜11月3日の会期で、東京ミッドタウンを会場に開催されたデザインイベント「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015」。世界的建築家 隈研吾さんの手掛けた「つみきのひろば」は、触れて遊べる建築として広く話題となった。「子供の頃に遊んだつみきは、自分のクリエイションの原点」と語る氏は、ふだんどういう物事からクリエイティブのアイディアやインスピレーションを得ているのだろうか ? 東京・青山のオフィスを訪ね、ビジネスにも応用できそうな「クリエイティブな発想のヒント」を教えて貰った。
──この秋、東京ミッドタウンで開催された「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015」。そのメインイベントとなった「つみきのひろば」が好評でした。
「建築は誰でもつくれる、というのが僕の基本的なスタンスです。将来的にも、その方向にあると思っています。プロに任せるのではなく、自分のスペースは自分でつくる。つみきは最も易しい建築でもあるわけです。子どもの遊び道具的イメージがありますが、そこに大人にとっても意味のある、色々な建築的ヒントが隠れていることを判ってもらえたらいいな、と思いました。」
- ※ Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015のメインイベントとなった、つみきのひろば。隈研吾氏自らが東京ミッドタウンで手掛けたパブリック・インスタレーション作品だ。
──世界的建築家ならではの過密スケジュールのなか、日々どのようにして、インスピレーションを得ていますか?
「まず、歩くこと。ひとつの場所にとどまらないことを常に心がけています。つい最近も香港に行ったのですが、突然30分時間が出来ました。ラウンジで一休みしたいとも思いましたが、やっぱり外を歩き回りました。30分でも、それまで全く知らなかったモノや人に会えるチャンスです。どんなに深く考えても、自分の場所に籠もっていたらインスピレーションは湧きませんから。」
──著書のなかに旅装を極限まで絞られることについての記述がありましたが、それも歩き回るため?
「そうです。なるべく軽装でいきます。軽装が最優先です。色々経験し試行錯誤の結果、今では二週間程度の旅なら機内持ち込みできるサイズの、肩からさげるバックひとつで事足ります。スーツケースなんかもってのほか、トローリーバッグも走りにくいから使いません。そうやって機動性を良くしていくと、精神状態もポジティブに変わります。」
──旅先で歩き回るときは、何か持ち歩きますか?
「基本的に何も持ちません。ポケットにペンがあるくらいで。書きつける紙は、何処に行っても何かしらあります。ペンはホテルの部屋に置いてあるようなものを常に何本か持っています。いいペンだと、ペンの方に気が行ってしまうから、無くしても気にならない方がいい。」
Creative Item. Pen
なくしても気にならないペンがいいんです。
空港のラウンジやホテルの客室から持ち帰ったペンが、インスピレーションの源となる。常にポケットに何本か常備。書き付ける紙は、その都度現場で調達すればいい。時にレストランのメニューの裏に壮大なプロジェクトの発端が現れることも。あまり綺麗にせず、心地いいランダムネスを大切にしているというデスクまわりは、30年来その景色が変わっていない。
──そうやって書きつけたメモは、いつ見直しますか?
「そう、そこが大事なところ(笑)。僕は出来るだけ人に見てもらうようしています。事務所にいるスタッフや研修生にメールします。すると『あ、こういう風に受け取られるんだ』というリアクションが得られる。そうしてコミュニケーション、カンバセーションが生まれます。僕のメモは、どう感じたかを記すのが基本。正直に書くから、結構面白いメッセージにもなっているようです。」
──それだけ軽装で旅をされ、歩き回るとなると、たとえば靴選びもシリアスになりそうな気がしますが。
「ええ、靴はとても大事ですよ。まだコンクリートも打ってないような現場にも立たなくちゃいけないし、歩くのが苦痛になるものは論外だし。今履いているスリッポンはシープスキンのライニング付きで、これを裸足で履くと足が心地よく刺激されなかなかいいんです。今日はこれで飯山市(長野県)の現場を歩いてきたところです。」
Creative Item. Shoes
歩く際、時に靴は精神を律します。
現場を走り回ってもOKで、汚れなんか気にならないことが靴選びの基本。歩き回ることにより血流が良くなり、脳が活性化する作用も見逃せない、とのこと。常に歩くことによってインスピレーションを得ている建築家にとって、靴は時に精神状態に強く影響するアイテムだという。
──他にインスピレーションを得るために、普段から心がけていることはありますか?
「自分の部屋をつくらないことですね。オフィスの僕の机は他のスタッフと同じ大きさで、それは1985年に事務所を立ち上げた時から何ら変わっていません。長年やっていると、つい壁で囲って部屋をつくったりしてしまいがちですが、あれはよくないと思います。人が入りづらくなり、ノイズも入らない。僕の机にはノーアポで誰でも来ちゃうから、時にはうるさいな、煩わしいな、と思ったりもしますが、そのノイズの中に思ってもみなかったアイデアが含まれていたりしますからね。このプロジェクトは調子悪そうだなとか、あいつはスランプなのかなとか、オフィスの空気が読める点もいい。」
Creative Item. No Wall
壁をつくるのは良くないな ノイズにこそ情報がある。
インタビューの合間、ちょっと移動しただけでスタッフに捉えられ、ミーティングが始まる。なるほどコミュニケーションにいささかの壁も垣根も立てられていない。世界的建築家の机も、やや奥まっているとはいえ、仕切りもドアもなくひっそりと開かれていた。ノイズの中から思ってもみなかったアイデアを得る、との言葉にもうなずける。
──ひとつの場所にとどまらず、歩き、壁をつくらない。ひらめきを得るための方法論も一貫しています。
「日本人は基本、日本からあまり出たがらないような気がします。やはりそこにはリスクがありますからね。でも僕は出るリスクより、出て得ることの方が大きいと思うから、なるべく出ようと。色々な国やエリアから仕事のオファーがありますが、出来るだけ今まで経験したことの無い場所、無いタイプの仕事を選ぶようにしています。今までの自分の常識を壊してくれる人、モノとの出会いが自分の発想を広げてくれる、ひいては自分を変えてくれるからです。」
──いまお話をうかがいながら、オフィスを見せていただきました。机周辺は本や書類が山積みになって、混沌とした印象を受けました。その混沌もインスピレーションを得るのに大切なのでしょうか?
「あまりきれいにしないことも、大切ですよ。僕はそう思っています。重要なのは気持ちのいいランダムネスですね。そういえば、机の大きさ同様、机まわりの景色もここ30年変わっていないなぁ。あと、そうだな。ここ(のオフィス)の他にも南青山周辺にいくつか拠点があるんですが、みんな歩いて数分です。その数分歩くというのが、とてもいい。要は、外の空気を吸うこと。単純なことですが、インスピレーションに欠かさざるものは、まさにこの外の空気、ですね。」
- ※ 事務所ビルの屋上ペントハウス風ミーティングルーム。露天のウッドデッキに囲まれており、そこに行くのも外階段。移動のたびに否応なく外気に(時には風雨に)さらされるつくりとなっている。
隈研吾(くま・けんご)
1954年横浜生まれ。1979年東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、2001年より慶應義塾大学教授。2009年より東京大学教授。2010年「根津美術館」で毎日芸術賞受賞。また「アオーレ長岡」が、2014年日本建築学会賞(業績)を受賞。この9月には「隈研吾 オノマトペ 建築 」(エクスナレッジ刊)を上梓している。
※ 本記事は、「COMMONS PAGE」のタブロイド版フリーペーパー「COMMONS PAGE press Vol.2」から、「CREATIVITY & BUSINESS」を転載したものです。
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