2022.01.18

「ビジネスシーンの明日」を見据え、全社員で創り上げた新本社オフィス

2020年6月、三井不動産ビルマネジメント株式会社は本社を東銀座から日本橋室町へと移転。「ビジネスシーンの明日を変えていく」をブランドビジョンに掲げる同社にとって、新オフィスづくりは変化するお客様のニーズを捉えながら、自社で先んじて新たな働き方を体現していく挑戦でもありました。社員の意識改革と一体化した本社移転プロジェクトを中心になって進めた、営業推進部(当時・総務部 兼 働き方変革推進室)の井岡 悟さんに話を聞きました。

  • □ブランドビジョンを体現する本社移転プロジェクト
  • □新オフィスを自分ごと化し、自ら働き方をデザインする
  • □使うほど価値を高め、「経年優化」するオフィスへ
  • □自社を「新たな働き方」の実証実験の場として
  • □取材を終えて~「& Life-Biz編集部」の発見ポイント~

ブランドビジョンを体現する本社移転プロジェクト

現在、三井不動産ビルマネジメントが本社を置くのは、日本橋室町の「三井二号館」6~11階のフロア。7部門にまたがる約750名がこの新オフィスに所属します。
同社では近年、オフィスビルの運営管理に留まらず、テナント企業の「はたらく」を広くサポートする多様なソリューションサービスを展開してきました。そうした中、2016年に制定したのが「ビジネスシーンの明日を変えていく」というブランドビジョンです。
「本社移転にあたっては、まずこのブランドビジョンを体現するプロジェクトにしたいという想いがありました。そのためには単純にどんな空間をつくるかではなく、つくる過程を大切に、社員の意識改革を進めていくことが不可欠でした」と井岡さんは振り返ります。
当時社内には、部門間の連携が十分にとれていない、社内でも人や部門によって自社のビジネス像の捉え方が様々である、などの課題がありました。また、オフィスビルのプロパティマネジメント会社(以降略称、PM会社)としての歴史が長いだけに社員の知識が「ビル管理」に集中していて、「オフィスの価値向上」に向きにくかったのも事実です。「私たちが『ビジネスシーンの明日を変えていく』を掲げる以上、これらは本業としてまず自社で取り組むべき課題で、そうでなければお客様への良い提案はできません。本社移転は会社を大きく変えていく契機として重要でした」と井岡さん。
井岡さんの他、各部門から選抜した若手・中堅社員9名がプロジェクトチームを結成。社員がコミュニケーション豊かにイキイキと働き、自ら自慢できるようなオフィスを目指し、2年近くにわたるプロジェクトが推進されました。

新オフィスを自分ごと化し、自ら働き方をデザインする

誕生した新オフィスは独特の「ミルフィーユ構造」をとり、執務フロアを奇数階として、その間の偶数階にカフェやコワークスペースを挿入しました。一般的には執務フロアは連続階とする企業が多いものの、社員が階をまたいで回遊したくなるような魅力的な空間を挟むことで、社内のコミュニケーションを活性化。さらに8階に全社員の個人ロッカーを集約して誰もが出社時・帰宅時に立ち寄るようにし、そこで生まれる偶発的な会話を促しています。
井岡さんは「体験を通して一緒にオフィスのあり方を考えていけるよう、社員の巻き込みには終始徹底しました」と姿勢を語ります。説明会やイベントによるチェンジマネジメントプログラムで意識改革を図るほか、プロジェクトチームとは別に全7部門それぞれにCore検討チームを置き、合計約80名が参画しました。
Core検討チームは、今自部門にある課題と本来目指す姿、そこに横たわるギャップ、解決のために新オフィスでの理想の働き方などを話し合ってまとめ、経営層へプレゼン。新オフィスへの期待が全社的に高まる中でも、Core検討チームの熱意は格別だったそうで、「設計を依頼した社外デザイナーにも逆プレゼンして、驚かれるほどでした」と井岡さんは笑います。全体的なデザインの統一性を大切にしながらも、「自部門のことは自分たちで決める」という方針のもと、完成したオフィスには部門ごとの特色が随所に反映されました。
執務エリアと8階のカフェの椅子を投票で決めたのも、社員を巻き込んでいく工夫のひとつです。特に執務用のデスクチェアは、本社だけでなく全国各地の拠点を含めて投票を募り、選ばれたものを本社外や地方支店も含め、全ての拠点で使用しています。

使うほど価値を高め、「経年優化」するオフィスへ

移転時、すでに築36年を過ぎるビルだったことによる制約もありました。上下階をつなぐ内階段の設置は構造上叶わず、代わりに考案したのが前述のミルフィーユ構造でした。また、空間を遮る太い柱はホワイトボードとして活用するなど工夫を凝らします。
「天井高も2,550ミリと低めですが、執務エリアでは通常の天井を張る一方、コラボレーションエリアではスケルトン天井にするなどメリハリをつけました。建築物の構造体をむき出しにしたスケルトン天井では、空間が広く見え、声の反響も抑えられる反面、冷暖房効率は落ちます。お客様へオフィスを提案する上で、社員がこうしたメリット・デメリットを実体験する意義は大きいと考えています」と井岡さん。
さらに、8階のコミュニケーションフロアではスケルトン天井に設備名称を記したり、床下の配線を一部クリアガラスにして見える化したこともユニークな点です。「PM会社である三井不動産ビルマネジメントらしさを意識しました。このダクトは何なのか、オフィスの床下はどうなっているのかなど、ベテランが新入社員に説明する姿もしばしば見られ、学べるデザインになっています」と井岡さんは話します。
新オフィスは「経年優化」という発想のもと、現在も改善活動が続けられます。Core検討チームは、移転後には「働き方デザイン推進チーム」へと移行。より付加価値の高い働き方を考え、空間のアレンジや運用方法の見直しを行います。「移転したその日が一番きれいで、使うほどにどんどん劣化していくというのは悲しいもの。特に当社はPM会社なので、長くより良く使っていくことに重きを置いています」

自社を「新たな働き方」の実証実験の場として

2021年9月、三井不動産ビルマネジメントは第34回日経ニューオフィス賞「ニューオフィス推進賞」を受賞。「空間の豪華さではもっと優れた企業が他にたくさんあると思います。今回の受賞は、オフィスづくりを意識改革とつなげて全社で取り組んだプロセスを評価いただいた結果となりました」と井岡さんは認識を示します。
新オフィスではテナント様をはじめ外部からの見学を随時受け付けており、オンラインツアーを含めてすでに120社を超える企業を迎えています。「やはりお客様も、意匠やデザインに増してオフィスづくりのプロセスに関心を寄せられます。コロナ禍にある今、オフィスや社員の意識改革に関する悩みを抱えた企業は多く、当社の取り組みから何らかのヒントを得ていただけると嬉しいです」と井岡さんは考えます。

移転をゴールとしない三井不動産ビルマネジメントの本社では、今も各部門が多様な取り組みを展開し、そのナレッジは日を追うごとに蓄積されています。部門によっては毎朝クジを引いて席決めをしたり、時節ごとの部内イベントが日常的に開催されていたりも。「『当社では先日こういう取り組みをして、すごくおもしろかったですよ』など社外の方に積極的に話す社員が増えたのがいいなと感じています。転換期にある今、何がベストな施策なのかはだれにも分からず、だからこそ試行錯誤の過程にさえ興味を持ってもらえます。今後も当社の本社オフィスを実証実験の場とし、そこで得たものを広くお客様に発信していきたいですね」と井岡さんは笑顔を見せます。

取材を終えて~「& Life-Biz編集部」の発見ポイント~

「オフィスに来るたび、新しい発見を得られるようにしたい」という井岡さんの言葉を表すように、三井不動産ビルマネジメントの新オフィスには、細部にも楽しい工夫が凝らされます。建具や壁面のモチーフはよく見るとコーポレートデザインを模したものだったり、旧オフィスで使用されていた象徴的な絵やサインが形を変えて引き継がれ、空間に溶け込んでいたり。移転から2年目を迎えても、社員たちが「今日初めて気づいた!」という新鮮な驚きを得られるのが、大きな魅力のひとつといえるのかもしれません。

Company Profile

三井不動産ビルマネジメント株式会社/オーナーより受託したビルを運営管理するプロパティマネジメント事業を日本全国で展開。受託ビルは360棟、テナント数は3,000社にのぼる(2021年8月時点)。また、テナント企業の「はたらく」をより広くサポートするため、受付や総務・庶務のアウトソーシング、研修サービス、シェアオフィスの運営など多様なソリューションサービスを展開。

Today's Speaker

営業推進部 営業推進グループ
主事 井岡 悟さん

※インタビューはマスクを着用して実施しております。写真撮影のみ、マスクを外しております。

※本サイトのサービス名称は、2023年3月31日より「&BIZ」へ名称変更いたしました。

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