2015.07.31

効き目満点!「NOと言わせない!」ビジネス資料の作り方 第1回

「パワポを開く前にやるべき注意点」仮説立案(1)目的を決める!

1.まず知っておくべき「二つのわかる」

「結局、何をすればいいのですか?」「おっしゃることはごもっともですが」......。上司や顧客へ資料を提出した際、このように返された経験はありませんか。その理由は、あなたの資料がわかりにくいことにあります。

資料作成で最も重要なのは、相手にわかってもらうことです。

「わかる」には二つの意味があります。一つは意味を理解すること。これは、情報が脳内の本棚に納められ、そこから適切に引き出すことが可能な状態を指します。もう一つは意義を納得すること。主張に合点がいって腹に落ち、アクションをとることが可能な状態です。

わかりやすい資料をつくるためには、この二つを満たす必要があります。意味を理解してもらうには、情報の量と質を適切にし、相手の脳に納めやすくする。意義を納得してもらうには、論理的・感情的に受け入れやすくしなければなりません。

まず最初はペンで紙に書いてみる

では、そのためにどうすればいいか。一つ意識してほしいのは、資料を作成する際に、いきなりパソコンを立ち上げないことです。

私はこのことを資料作成の研修や部下への指導の際に、言い続けてきました。最初は、ペンで紙に書いてみる。手書きなら、デザインや色など体裁を無視して本質的なメッセージだけを書くことができるからです。もし書くことが浮かんでこないのなら、それは考えが深まっていない証拠。何を伝えたいのか、相手にどうしてほしいかという資料の本質をふまえ、全体の構成をじっくり考えましょう。パワーポイントを立ち上げるのは、それからです。そのほうが経験上、速くて楽で、内容的にも優れたものがつくれます。

資料作成には、三つのステップ「仮説立案」「構成・文章化」「ビジュアル化」があります。私はこのうち前者二つの作業を基本的に紙で行い、その後、一気にパソコンで仕上げていきます。次項以降、その方法を解説していきましょう。

「目的設定」で実現したいことを明らかに

資料作成の出発点は「目的」を設定することです。目的といっても目先のやるべきことではなく、最終的に実現したいことを明らかにする必要があります。三段階で説明しましょう。

最終的に実現したいことは何かを考えよ

まず、「最終的に相手にどんな行動をとってもらいたいのか」というゴールをどこに置くかを考えます(図A①)。例えば、私が研修資料をつくるなら、「受講者に実践できるテクニックを持ち帰ってもらう」ということがゴールになります。

ゴールは一言で明快にまとめてください。目安は一行です。細部に入り込みすぎると曖昧になってしまいます。

次は、先ほど設定したゴールのために「何を理解してもらいたいのか」を明らかにしましょう(図A②)。ここで注意してほしいのは、図A②は図A①に関連している必要があるということ。「どんな行動をとってもらいたいのか」を飛び越え、ひたすら理解してもらいたいことだけを綿々と書いた資料が少なくありません。

最後に「相手がアクションを起こすためにはどのような心理状態にするべきか」を決めます(図A③)。資料を読み終わった後や説明し終わった後、相手にどんな状況になってもらいたいか。ゴールを「承認を取り付ける」と設定しても、資料説明後の相手の心理状態が「前向きにその気になっている」のか、あるいは「乗り気ではないが、しぶしぶ承知」なのかでは、その後のアクションに大きな違いが出てきます。

私自身は、相手の心理状態を「(講演や研修の受講者に)帰宅してから家族にこの話をしてもらいたい」と設定することがあります。家族に話すということは、私の講義の概要が頭に入っていて、しかも家族にもわかる言葉で説明できるところまで自分の中に浸透しているということです。受講者のそのような状態を頭にイメージしてみる。すると、覚えやすい表現や、具体的なたとえ話など、資料に載せるべき情報が自然と見えてくるのです。「どんな行動をとってもらいたいのか」が不明瞭で損をしている資料は少なくありません。営業先に「こういう商品もあります」という説明だけを書いた資料を見せ、相手から「それで?」と返されるケースがその典型。どんな行動をとってもらいたいのかという視点が、抜け落ちてしまっているのです。

ハッキリした目的は、相手の意思決定を促す

目的が不明瞭な資料は技術者がつくるものに多く見受けられます。彼らのつくる資料には、コンピュータのサーバー比較表やCPU性能比較表など、単にスペックの比較が大量に書いてあるケースが多い。しかし、受け手から見ると、いったい何を推奨されているのかがよくわかりません。相手の理解レベルを超えた情報を出しすぎて、相手に何をしてもらいたいのか、どれを選んだらよいのかを逆にわからなくさせてしまっているのです。

①A製品をお勧めする。②そのためにB、Cという要素を理解してもらう。③そのうえでA製品を選べば間違いないと確信してもらう。

このように目的を定めることが、相手の意思決定を促すことに繋がるのです。


Profile

清水久三子 &Create(アンド・クリエイト)代表

1969年、埼玉県生まれ。お茶の水女子大卒。日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業部、ラーニング&ナレッジ部門リーダーを経て、2013年独立。著書に『プロの課題設定力』『プロの資料作成力』などがある。

企画編集プレジデント社

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