
2015.08.27
財産(レガシー)を使いきれ! 社運をかけた文明堂東京の『おやつカステラ』【前編】
「カステラ一番、電話は二番、三時のおやつは文明堂~♪」
だれもが記憶にある、懐かしいCMソング。そこで踊る"仔グマ"がデザインされた、ひと口サイズの『おやつカステラ』が、文明堂東京より発売された。
手にとる人に"おやつは文明堂"と口ずさんで欲しい。そう想いをこめた商品を前に、新旧の世界観が炸裂したドタバタ劇を、三人が振り返る。
ミッションは"二切れ売る"こと
日本橋に本店を構える「文明堂東京」。贈答用菓子の老舗として、関東を中心に名をはせる同社だが、主力商品である"箱入り"カステラの売上低迷に直面していた。きれいに包装された箱入りカステラはサイズも大きく、価格も高くなってしまう。そんななか、 2013年10月に少量単位でのテスト商品として「東京カステーラ」を販売したところ、カステラの売上が伸長。これを機に、従来の百貨店中心の販路に加えて、「小分け売り」「総合スーパー(GMS)」「日常のおやつ」というカジュアルな商品展開に進出することが決まった。
会社から与えられたミッションは、「二切れで売れ」。しかし、「老舗の高級なカステラ」という骨の髄までしみこんだ意識が、新商品開発をするマーケティング部を、迷走させていた。
- 肥留間
「プロジェクトがスタートしたのは2014年5月。会社からは『半年以内に発売せよ』という、めちゃくちゃな急ぎ感でした。私の部内で、早速新商品のデザインコンセプトを練り、それを形にしてくれるデザイナーを探していたんです。それで、新しいビジネスの場づくりをしている、Clipニホンバシのファシリテーターである近藤さんに相談したのです。」
- 近藤
「企画書を拝見し、言いたいことは理解できましたが、Clipとしては、デザイナーを紹介することより、まず販売の戦略に立ち戻っての検討が必要だと。そこでClipのイベントにも参加したことがある、クリエイティブディレクターであり、物販に関するプロでもある山田遊さんに、相談してみることにしたんです。」
- 山田
「その時拝見した商品イメージは、高いデザイン性で絶賛されている福砂屋さんの『キューブカステラ』の路線に近いもの、いわば百貨店の流通狙いでした。よりマスな売場で販売していきたい方針と、創ろうとしているパッケージが全然フィットしていないのです。今回、文明堂さんが、スーパーマーケットからイオンのような総合スーパー(GMS)までの販路を狙うのであれば、今までのトンマナを守る必要はなく、ある意味スタンドアローンの商品であるべきだと。具体的な条件としては、単品で成立する"強い個性"と、敷居の高さを払拭した"親しみやすさ"と、贈答用ではない"日常のおやつ"としての訴求が大切、と指摘させていただきました。」
- 肥留間
「実は私も、自部署で進めてきながら、これでいいのかと迷いがあり、歯がゆかったというのが正直なところ。マスに流通させるのが目的なのに、文明堂内にある『老舗で高級な贈答用のカステラ』という無意識が邪魔をして、どうしても従来の発想になっていた。一方、今までお願いしていた社外のデザイナーもいたのですが、彼らは僕らの体質や事情をある意味、必要以上に『理解』して事をおさめてくれちゃう。そこも変えていきたいと思いましたね。」
『おやつカステラ』懐かしいCMの"クマのデザイン"。2切れ入り・270円(税込)で2015年3月3日発売。
文明堂の"財産"を使わずして、どうする!
一世紀近くも由緒正しき商品路線をひたむきに続けてきた文明堂東京。しかし、クリエイティブディレクター・バイヤーとして数えきれないほどの商品と対峙し、鍛え抜かれた山田の目には、他にはない文明堂東京の"財産"がはっきりと映っていた。
- 山田
「何が何でも売りたいという戦いの中で、まず、歴史ある文明堂が持つ財産はひたすら使い切ろうと思いました。そうした時、僕含め、世の人が文明堂の名を覚えたのは、あの "クマ"のCM。子供の頃に食べた記憶を一気に想起させる、強烈なインパクトがある。そんな文明堂の財産であるこの"クマ"を、パッケージに使わない手はないでしょう、と。」
- 肥留間
「確かにあのCM当時、ゴロが良い『3時のおやつは文明堂~♪』という宣伝フレーズにのせて世に浸透していきました。当時の宣伝担当も、ここにそこまで強い意味を込めてはいなかったと、私は推測しますけどね。一方で会社としては、『カステラはもともと高級な贈答用菓子』という意識も強く、『3時のおやつ』の象徴になってしまったあの"クマ"を、その後の商品宣伝に使うことには、どうも抵抗があったんです。おかしな話なんですけどね...(笑)。でも、こうやって議論を重ねるうち、あぁ、外から見たうちのイメージって、決定的にあのCMの"クマ"なんだよな...って。今回、新たに"おやつ"として売っていく商品には、この"クマ"こそがふさわしいんじゃないかって思い直したんです。」
- 山田
「僕も、かなりズケズケと否定をしてしまいましたが...。でも正直、会社的にクマを使わない絶対的な理由があるとか、確固たるブランディングの方向性がある訳ではなかったので、逆に"今までの踏襲"に固執する必要もない。だからこそ文明堂としても、ここで思い切り、そこから "ジャンプ"する必要はあるのでは、と。」
- 肥留間
「"クマ"を打ち出すというように、方向性を大きく変えるには、まず社長含め役員の説得が必要です。また、前例がないことに反対が起こるのも目に見えていました。しかし、私も意を決しました。お二人にも参戦していただき、新しい販売における戦略を提案すべく、社長プレゼンに臨むことになったんです。事前に社長から内容を尋ねられたんですが、私だけでは負けると思い、必死で黙っていましたが(笑)。」
「今こそ、文明堂の財産を使うべき」という突然の新風には、案の定、不穏な感を見せる役員も多かった。しかし、社長の一言は意外にも「これでやってみましょう」。この時トップの目に、しかと"クマ"が財産に映っていたかは定かではないが、挑戦に対しては後押ししてくれたのだ。こうして賽は投げられたものの、社内ではまだまだ向い風が吹いていた。
気になるお話の続きは、以下のリンク先からご覧いただけます。
「財産(レガシー)を使い切れ! 社運をかけた文明堂東京の『おやつカステラ』【後編】」
肥留間 一 (ひるま・はじめ)
株式会社文明堂東京 マーケティング部長
1983年文明堂東京入社。羽田空港を中心とした新規市場開拓に従事した後、マーケティング部にて商品開発に携わる。文明堂は1900年長崎にて創業(現・文明堂総本店)。1922年に東京進出、上野に1号店出店(東京文明堂創立)。1925年宮内省御用達を賜る。1957年TVCMを開始。2010年㈱文明堂新宿店・㈱文明堂日本橋店が合併し、現・株式会社文明堂東京となる。
山田 遊 (やまだ・ゆう)
株式会社メソッド 代表取締役
バイヤー/クリエイティブディレクター。南青山のIDÉE SHOPのバイヤーを経て、2007年、クリエイティブディレクション事務所「method(メソッド)」を立ち上げる。グッドデザイン賞審査委員、「APEC JAPAN 2010」・「2012年IMF・世界総会」にて世界のゲストへのお土産品セレクト、京都精華大学非常勤講師など、多岐に渡り活動中。
WORKS ①国立新美術館ミュージアムショップ「スーベニアフロムトーキョー」サポートディレクション ②羽田空港内の東京土産セレクトショップ「Tokyo's Tokyo」グッズセレクト 他
近藤 ナオ(こんどう・なお)
Clipニホンバシのファシリテーター。
Clipニホンバシとは?
Clipニホンバシは、アイデアを生む段階から、それがビジネスとして成立するまでのプロセスをすべて短期間で実践できる新しいコワーキングスペースです。
メンバーは、営業時間中、施設を自由に使うことができます。
週2〜3回開催されるワークショップへの参加や、ミーティングルームの貸切などの特典を活用して、たくさんの出会いと、新しいビジネスが生まれています。
本記事は、企業人・クリエイターの新しい働き方を提案する、Clip ニホンバシの情報誌「The Clip Times vol.1」から、「Cross talk 01」を転載したものです。
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