2022.11.14

「男性育休」は、本人・家族・職場にイイコトだらけ

●はじめに

2022年4月から順次施行となっている改正「育児・介護休業法」では 、男性の育児休業取得促進が期待されています。中でも10月から施行となった「産後パパ育休」は高い注目度ではあるものの、パパの育休率や子育て時間はまだ低飛行が続いています。その主な理由は、パパ本人の意識と上司の意識にあります。そこで、子育てがパパと職場にとってプラス面がたくさんありますよ、ということをお話します。また、子育て時間ねん出のために仕事時間を削減しながら仕事の成果を下げない「仕事の心得」も加えます。

●男性の育休義務化と広義の子育て

産後パパ育休の概要は以下の通りで、パパも産後休業が可能となり、企業には義務が課されました。

ところで子育てとは、育休など我が子への直接だけではなく、炊事洗濯などの「家事」、PTAやスポーツ指導などの「地域活動」も、広義の子育てに入ります。

●パパにとってイイコトだらけ

これらを「主体的に」やるとパパにはプラス面がたくさんあります。
まず「至福で宝石のような時間・空間」を得られること。「子育ては常に今が旬・期間限定の特権」というのが私の常套句です。
家事をやると、生活力が身につき、働く姿を我が子に見せることができ、マルチタスク能力が高まります。
地域活動に参画すると、地元の友人が増え、楽しむ場所や第三の居場所ができ、自分の能力を社会還元できます。そして、ママ(妻)のキャリア支援につながりママの笑顔とユトリが増えます。パパと接する時間が増えることで我が子も喜び教育にもプラス大です。

そして、ママ(妻)のキャリア支援につながりママの笑顔とユトリが増えます。パパと接する時間が増えることで我が子も喜び教育にもプラス大です。更に、子育てなどの私ごと(Life)、地域活動などの社会ごと(Social)をやることで、パパ本人の仕事能力が高まります。仕事と私生活という二つの異質を掛け算することで新規アイデアが生まれます。PTAなどのSocial活動では多様な人々をまとめ上げ前に進めることでマネジメント能力が身につきます(「MBAよりPTA」が私の常套句)。

●私生活の時間は「自責」で作る

LifeやSocialの満喫で仕事能力も高まると述べましたが、すぐに効果が出るわけではありません。つまり、短期的には仕事時間が減るので成果も下がってしまう可能性が大きいです。では、仕事の成果は下げずに時間を減らすために、一人の部下として、どうすればいいのか、私が意識してきたことをいくつか抽出してみます。まず「権利主張の前に職責を果たす」という覚悟を持つこと。子育て制度が整備されてきた分、「権利主張型・既得権益型」の部下に成り下がってしまう可能性があるからです。仕事と私生活の両立とは二兎を追うもの、だから「緩いのではなく厳しい」、厳しいからこそ得ることも2倍あるということです。例えば次のようなことを心掛けてきました。

  • 我が子の発熱などで会社を休むことになっても仕事の締切りを守れるよう、指示された期限の2割前に自主締切り日を設定。
  • 「いつまでにこんな成果を」と各仕事に旗を立て、そこから逆算して複数の中間地点を設定し、一覧にした仕事リストを作り周囲と共有。
  • 受け身ではなく能動的になり、自分のペースで仕事を進められるようにする(=私生活の予定を入れ易い)。
  • 仕事の着手前に依頼主と目的・成果物・濃度を合意し、ズレが無いか途中で確認し、ある程度完成したら更に進めるかを確認する。
  • 上司や職場に対して不満言うより自ら行動。「職場に無駄が多い」と言う前に何が無駄かを説明。「意義ある仕事をしたい」と言う前に自分で意義を探すなど。

●部下の私生活も応援する上司(イクボス)になろう

仕事と私生活の両立には、上司や経営者(以下「上司」で統一)の意識も大切です。そこで「イクボス」についてご説明します。

<イクボスの定義>

  • 部下の大切な私生活と仕事(キャリア)を共に応援
  • 上司自らもワークライフバランスを満喫
  • 組織の目標達成に強い責任感を持つ

イクボスを世に出したところ、瞬く間に全国に広がり、3,000社以上がイクボス企業同盟に加盟し、300人を超える公的トップがイクボス宣言をしています。
実は私が、イクボスの定義と10カ条を作りました。これらは、私が総合商社の管理職時代と上場会社の社長時代に、心がけてきたことを列挙したものです。

イクボスをやってきたことでその会社では、社員が私生活時間を十分に取れるようになり、更に3年間で利益は8割増、株価は2倍、残業は1/4、社員満足度調査の結果は過去最高を更新となりました。
上司がイクボスで部下が私生活を満喫するようになると、以下3つの理由で組織の成果が高まります。

  • 各自の仕事能力が高まるから(前述)。
  • 人材採用にプラス、会社の知名度が向上、イノベーションな組織になるから。
  • メンタル不全、事故やミス、離職率増加などのリスクが軽減するから。

●最後に

育休を含め男性が子育てし易い職場にする ⇒ 女性も子育ての両立がし易くなる ⇒ 大切な私生活を取れるようにする ⇒ すると職場の業績が良くなり、男性(パパ)にもイイコトだらけです。
そのためにも、部下は「自責で働き方改革」を、上司は「イクボス的な経営」をする必要があります。目的はただ一つ、「WorkもLifeもSocialも」と人生を欲張るためです!

川島高之 (かわしまたかゆき)NPO法人ファザーリング・ジャパン 理事
1987年に慶応大学卒、三井物産に入社。上場会社の社長時代、「イクボス式」経営により3年間で利益8割増、株価2倍、残業1/4、社員満足度調査も過去最高に。2016年に独立、NPOファザーリング・ジャパン理事、NPOコヂカラ・ニッポン創業、内閣府・男女共同参画委員、文科省・学校業務改善アドバイザー等を歴任。 子育てや家事(Life)、会社社長や商社勤務(Work)、PTA会長やNPO代表(Social)という3つの経験を融合させた講演が年200回以上。「元祖イクボス」としてNHK「クローズアップ現代」で特集され、アエラ「日本を突破する100人」にも選出。著書「いつまでも会社があると思うなよ」、「職場のムダ取り教科書」。

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