2024.10.25

一次相続対策のみでは、後の「争族」につながる?「二次への備え」が家族円満のカギ【第1回】

情報誌レッツプラザ2024年Summer号より引用

「大切に守り育ててきた資産を次世代にしっかり残したい」「子どもたちが満足できる形で相続し、誰かが不満を感じたり、家族が不和になったりすることは避けたい」......。不動産オーナー様の多くがそう願っていることでしょう。そのため、最初に迎える一次相続は多くの方が対策を講じます。しかし、相続には一次相続だけではなく、その後の二次相続もあり、"争族"が起きるのは二次相続のほうが圧倒的に多いのです。そこで今回は、二次相続で起きやすい問題や対策についてご紹介します。一次相続と二次相続を乗り越え、末長く家族円満でいられるように、ぜひ参考にしていただければと思います。

事例でわかる、二次相続の"大問題"

一次相続の際の相続人同士のわだかまりが二次相続で噴出したり、親の介護負担と遺産分割をめぐって相続人の主張が対立したり......。そうしたことから"争族"に発展するケースは多々あります。まずは、二次相続で問題が生じた事例を見ていきましょう。

Case01 一次相続で譲歩した次女、三女が二次相続で権利を主張

江戸末期から続く老舗和菓子店を営むW家。当主の父親が逝去し、母親と娘3人が相続人となりました。長女の夫はW家の婿養子となっており、長女と夫が店を承継することは父親の生前から決まっていました。次女と三女は独立し、それぞれ家庭があります。

従前より実質的な経営は娘夫婦が担い、借入をしながら店舗の改装や新規出店を行ってきたこともあり、父親は妻に資産の半分、残り半分のほとんどを長女夫婦に相続すると決めていました。その意向を踏まえ、母親は次女と三女に「家業を存続させるために、お父さんが決めた通りにしたい」と話し頭を下げました。次女は不満を口にしましたが、「事業には資金が必要で、お父さんが決めたことだから」と母親に説得され、引き下がることにしました。

しかし2年後に母親が他界し、二次相続が発生するやいなや、次女が長女夫婦に「一次相続の際、自分と妹は母に配慮して分割協議に合意したけれど、今度はそうはいかない」と宣言したのです。長女は法定相続分に加え、母親がお店のために使ってほしいと言っていた現預金も次女と三女に渡しましたが、次女は「姉夫婦は一次相続の際にそれ以上もらっている」と不服を訴え、〝争族〟に発展。姉妹は相続をめぐって反目するようになってしまいました......。

Case02 父の他界後、母を献身的に介護。その苦労が遺産分割割合に考慮されず...

Yさんは3人兄弟の次男で、兄弟3人とも実家を出て家庭を持っていました。しかし、父親が亡くなったのを機に、Yさんは母の面倒をみようと妻と子どもとともに実家に戻り、母親と同居することを決意。そんなYさんに長男と三男は感謝の気持ちを伝えました。

ほどなく母親は介護が必要となり、数年間の在宅介護の後、有料老人ホームに入居しました。そうなっても、Yさんや妻は頻繁に施設を訪問し、母親の身の回りの世話をしていました。母親もYさんを頼りにし、Yさんに資産の多くを残したいとよく口にしていました。

やがて母親が逝去し、遺言がなかったため兄弟3人で遺産分割協議を行うことになりました。Yさんは妻や子どもの協力も得ながら、母親の日常的な世話から介護、施設探し、入居後の対応まで一切を行ってきました。遺産分割協議においてはその苦労が当然考慮されるものとYさんは考えていましたが、長男と三男は3分の1ずつの分割を主張。「母親の面倒をみてくれたことは感謝しているが、都心の一戸建ての実家に賃料なしで住めたのだから恩恵もあったはずだ」というのが2人の言い分です。

最終的には、自宅をYさんが相続し、駐車場などの収益物件を長男と三男が取得する形で、ほぼ法定相続分での分割を実施することに。母親を介護してきたことに対して何の報いもないことにYさんは憤慨しましたが、母親の遺言書もなくどうすることもできませんでした......。

Case03 資産は都内の広い自宅のみ。分割しにくい不動産が争族の火種に

Gさんには姉がおり、2人とも都内の実家を離れて一人暮らしをしていました。父親は数年前に亡くなり、資産の大部分を占める自宅は、相続税の軽減を図るため、配偶者控除と小規模宅地等の特例を適用して母親が相続しました。

やがて母親も高齢になり広い自宅の維持管理が負担になったことから、姉とGさんに「どちらか一緒に住んでくれないか」と相談がありました。姉は「仕事が忙しくて自宅のことまで手が回らない」と言います。Gさんも忙しく働いていましたが、母親の体を気遣って自分が実家に戻ることにしました。自分が母親と同居すれば、母親の相続の際は小規模宅地等の特例を適用し、相続税を軽減することもできます。

その後、母親が亡くなり、二次相続が発生しました。父親と同じく、母親の資産もそのほとんどが自宅です。Gさんはこれまで大切に守ってきた自宅は自分が相続し、このまま住み続けたいと考えていました。しかし、姉は妹が都内の広い自宅を相続し、自分が相続するのはわずかな金融資産ということに納得せず、「妹が自宅を相続するのなら、妹は自分に代償金を支払うべきだ」と主張します。そう言われても、Gさんには代償金を払う資金などありません。結局、相続税の申告期限が過ぎても遺産分割協議がまとまらなかったため特例も使えません。相続税を支払うには、実家を売却するしかなさそうです......。

Case04 母親の世話をしてきた長女。財産の使い込みを兄弟から疑われることに

父親が亡くなった後、一人暮らしになった母親の世話は長女のKさんがしてきました。長男と次男は仕事で忙しく、母親の世話はKさんに任せきりでしたが、会うたびに感謝を示してくれることもあり兄弟仲は良好でした。

しかし、母親が亡くなると思ってもみないことが起きました。次男が「姉は母のお金を使い込み、自分たちに通帳も見せない」と親類に話したのです。そして、「父の相続で母は3,000万円受け取ったのに、1,000万円しか残っていない。数年の間にそんなに使うわけがない」と主張してきました。

Kさんは税理士に相談し、一次相続後の支出について精査してもらうことにしました。介護保険のサービス利用料、医療費、冠婚葬祭、有料老人ホームの入居一時金など、計算すると残高の減少は十分説明がつき、不審な点はないことが証明されました。その後、経緯を見守っていた長男からの提案で3分の1ずつを基準に、Kさんはやや多くの遺産を相続することになりました。しかし、一度亀裂が入ってしまった兄弟の関係がもとに戻ることはありませんでした。幼いころから仲がよかった3人でしたが、遺産分割協議終了後は一切連絡をしないほど疎遠になってしまったのです......。

◆     ◆     ◆

次回は、二次相続で問題が起きやすい理由についてご紹介します。お楽しみに!

(第2回に続く)

公認会計士・税理士。1967年、神奈川県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、安田信託銀行入行。2000年、公認会計士登録。2002年、山田&パートナーズ会計事務所、株式会社ソニーを経て、タクトコンサルティング入社。2009年、税理士法人タクトコンサルティング代表社員就任。2020年、株式会社タクトコンサルティング代表取締役社長就任。現在、税理士法人タクトコンサルティングにて、相続、譲渡、交換、土地活用、企業組織再編、M&A、事業承継対策等の実務に携わる。

税理士法人タクトコンサルティング 代表社員・株式会社タクトコンサルティング 代表取締役社長

山田毅志 氏

なお、本コラムは三井不動産グループの資産経営情報誌「Let's Plaza 2024.Summer号」に掲載した記事を修正、改題したものです。「Let's Plaza」(年3回発行)では資産経営に関する旬な話題や詳細な事例などを豊富に掲載しておりますので、ぜひ最新号よりご購読ください。

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