2024.11.25

一次相続対策のみでは、後の「争族」につながる? 「二次への備え」が家族円満のカギ【第2回】

情報誌レッツプラザ2024年Summer号より引用

前回は、親の介護負担と遺産分割をめぐって相続人の主張が対立したり、分割しにくい不動産が"争族"の火種になったりなど、二次相続で問題が生じたさまざまな事例を紹介しました。そして、そうした問題が起きるのは、一次相続よりも二次相続のほうが圧倒的に多くなります。なぜ二次相続になるとさまざまな問題が起こるのでしょうか。今回は、その理由について見ていきましょう。

最大の要因は、親への配慮が不要になること

二次相続で問題が起きやすい最大の要因は、親が2人とも他界し、子どもにとって抑止力がなくなることです。父親が先に亡くなるケースでは、母親が存命している中での一次相続となります。そのため、子どもには「お母さんの生活を第一に考えよう」「お母さんの言うことを尊重しよう」という気持ちが働き、遠慮も生まれます。

しかし、二次相続になると親は2人とも他界し、おもんぱかる存在がなくなります。そうなると、子どもの教育費が高い、住宅ローンが残っている、定年が近いなど自分たちの事情や気持ちが前面に出て、各人がそれぞれの立場から権利を主張することになりがちです。その結果、話し合いがまとまりにくくなるのです。

一次相続より相続税額が高くなりやすいのも要因の1つ

二次相続は、一次相続より相続税の額が高くなりやすいこともトラブルの要因です。図表1は両親と子ども3人の世帯で、最初に父親が他界して一次相続をし、その後に母親が亡くなって二次相続が発生した例です。

一次相続における相続人は母親と子ども3人で計4人ですが、二次相続では子ども3人のみと、相続人の人数が少なくなります。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」分の基礎控除があります。二次相続では法定相続人の人数が減るため、基礎控除が小さくなってしまうのです。

配偶者に対する税控除の有無も相続税額に大きな影響を及ぼします。配偶者控除は、配偶者が取得する遺産が配偶者の法定相続分相当額(2分の1)より少ない、または1億6,000万円より少ない場合には、配偶者の相続税額をゼロにできるという措置です。一次相続ではこの配偶者控除の適用により相続税額を大きく軽減することができますが、二次相続では配偶者はすでに亡くなっているため適用することができません。

このような一次相続と二次相続における相続税額の違いを表したのが図表2です。資産総額1億円の場合、一次相続では税額が385万円なのに対し、二次相続では1,220万円となっています。資産総額が5億円では、一次相続では税額が7,605万円、二次相続では1億9,000万円と、さらに大きな差が生じます。

また、小規模宅地等の特例も相続税額に大きく影響します。小規模宅地等の特例は、相続や遺贈などで取得した財産の中に居住用や事業用に使用されていた宅地等がある場合、その土地の評価額のうち一定割合を減額できるという制度です(小規模宅地等の特例の詳細はこちらからご確認ください)。

自宅の場合、敷地面積330㎡まで80%の減額が可能ですが、自宅に同居していた親族が相続することが要件となっています。一次相続では同居する配偶者が相続することで特例が適用できるケースが多いのに対し、二次相続では子が同居していないケースも多々あります。その場合は一定の要件に該当しなければ特例が適用されず、課税価格が高額となり、ひいては相続税額も大きくなってしまうのです。

一次相続で税を軽減すると二次で負担増になることも

一次相続のみの相続税額軽減を考えていると、一次・二次トータルの相続税額が高額になる場合もあります。留意すべきは、配偶者の相続、つまり二次相続時の税率に影響する資産総額です。

相続税額のシミュレーションを見てみましょう(図表3)。父親が亡くなり、資産総額は5億円、相続人は配偶者と子どもの2名と仮定します。

まずはAパターンです。一次相続のみを考えた場合、配偶者控除を適用し資産総額の50%を配偶者が相続すると、相続税は7,605万円と最小額に抑えることができます。しかし、相続税は取得する資産が多いほど税率が高くなる累進課税のため、一次相続で配偶者が取得する資産が多ければ多いほど、二次相続が発生した際の税率は高くなります。二次相続時の基礎控除後の配偶者の資産総額は2億1,400万円で税率45%ですから相続税額は6,930万円となり、一次・二次を合わせた相続税額は1億4,535万円です。

次はBパターンです。こちらは最初から一次・二次のトータルで相続税が最小額になるように計算し、そこから一次相続で配偶者が取得する資産の割合を割り出しています。一次・二次トータルでの相続税の最小額は1億3,373万3,000円。その場合、一次相続で配偶者が取得する資産の割合は27%で、相続税額は1億1,103万3,000円と、Aパターンよりも3,498万3,000円高くなります。しかし、二次相続では基礎控除後の配偶者の資産総額は9,900万円で税率30%であるため、相続税額は2,270万円と、Aパターンよりも4,660万円も低く抑えることができるのです。その結果、AパターンとBパターンでは一次・二次トータルで1,161万7,000円の相続税額の差が生じます。

配偶者個人の資産額も重要です。もともと所有資産がある場合はもちろん、一次相続で配偶者が収益不動産を取得したり、配偶者の実家等で相続が発生した場合も資産額が増えるため留意が必要です(配偶者に所有資産がある場合の相続税額のシミュレーションはこちらからご確認ください)。
さらに、小規模宅地等の特例が適用できるか否かも二次相続の相続税額に影響するのは前述の通りです。

資産総額や資産の種類、相続人の数、適用できる特例など、ケースによってさまざまですので、一次・二次トータルで相続対策を考える際は専門家に相談することをお勧めします。

不動産は分割の難しさがトラブル発生の要因に

前回のCASE03のように、相続財産の多くが不動産の場合、分割が難しいという不動産の特性も"争族"の要因になる場合があります。平等に相続する方法としては、不動産は長男に相続し次男には現預金を相続する、不動産を相続する長女が不動産を相続しない兄弟姉妹に代償金を支払うなどが考えられます。しかし現実的には、不動産は数億円分の価値があるものを所有していたとしても、同額の現預金は持っていないなどの理由から、これらの解決方法をとれないことも多く、分割でもめるケースが多くなってしまうのです。

こうした問題を防ぐために、不動産を相続人全員の共有にするケースも見られます。しかし、複数の相続人で不動産を共有にすることは、不動産の維持管理や売却がスムーズにできないなど、将来的に問題が発生しやすくなるためお勧めできません。

また、同じく前回のCASE02のように、親との同居や介護等の寄与分をめぐり、兄弟姉妹間で気持ちがすれ違う事例もよく聞きます。民法には「寄与分」や「特別寄与料」という考え方があるので自分は大丈夫と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、これらは財産形成に対しての寄与に報いるもので、介護や奉仕は考慮されません。

無償で療養看護その他の労務を提供し、「被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした場合」に限り、相続人であれば寄与分として相続分の調整、相続人以外の親族であれば寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の請求ができるという点に留意が必要です。介護などへの寄与分を遺産分割に反映させたい場合は、親が生前に遺言書を作成する、生前贈与を行うなどの対策を講じましょう。

また、前回のCASE04のように親と同居していた子どもが兄弟姉妹から財産隠しを疑われて"争族"に発展する例もあります。両親が揃っていたときよりも、親が1人きりになってからのほうがそうした疑念が生まれやすいようです。

親は日常的にどのくらいの支出があるかを子どもたちに知らせておく、大きな支出があったときはメモするなどを習慣にすることが大切です。また、子どものうちの1人が親の財産を管理する場合も、親の現預金からの支出についてはその都度メモしておくことをお勧めします。

◆    ◆    ◆

一次相続よりも二次相続で問題が起きやすい要因を見てきました。次回は、二次相続でそうした問題を発生させないための対策について考えます。お楽しみに!

(第3回に続く)

公認会計士・税理士。1967年、神奈川県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、安田信託銀行入行。2000年、公認会計士登録。2002年、山田&パートナーズ会計事務所、株式会社ソニーを経て、タクトコンサルティング入社。2009年、税理士法人タクトコンサルティング代表社員就任。2020年、株式会社タクトコンサルティング代表取締役社長就任。現在、税理士法人タクトコンサルティングにて、相続、譲渡、交換、土地活用、企業組織再編、M&A、事業承継対策等の実務に携わる。

税理士法人タクトコンサルティング 代表社員・株式会社タクトコンサルティング 代表取締役社長

山田毅志 氏

なお、本コラムは三井不動産グループの資産経営情報誌「Let's Plaza 2024.Summer号」に掲載した記事を修正、改題したものです。「Let's Plaza」(年3回発行)では資産経営に関する旬な話題や詳細な事例などを豊富に掲載しておりますので、ぜひ最新号よりご購読ください。

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